予告編
2019/11/10 15:22
(2014月3月3日 07:42 投稿作品)
予告編
川の畔に膝を着き、両手で掬って水を飲む。
「うめ〜っ!」
感嘆の声が上がった。
「なんだよ、畜生。こんなうめーなんて反則だろ」
子供のようにはしゃぐギルベルトの傍らで、もう少し暖かければ水浴びでもするんですけど、山陰のこの辺りでは日の翳りも早そうですし…、などと思いながら、菊は固く絞った手拭いで首や手足を拭いていた。
「うん?何だこりゃ?」
突拍子もない声に釣られて視線を上げれば、ギルベルトの手に何やら細長いものが握られていた。
どこかで見たような…?
そう思う意識の傍らで稲妻が脳天を打ち抜いた!
「な、な、何をしているんですか、あなたは−ー!!」
次の瞬間、菊は目にも止まらぬ速さでギルベルトの手から細長いものを取り上げていた。[
「あ?」
「あーーっ!!やっぱりっ!!何てことしてくれるんですか、あなたはーーっ!!」
「ふぇ?」
「あれほど、物に触れる時は注意してください、って言ったじゃないですか!!何で拾うんですか、あなたはーーっ!!」
怒髪天を突く勢いで怒鳴りまくる菊に、ギルベルトは、あー、えー、とうろたえるばかりだった。
「我が国の歴史が変わってしまいます!!須佐之男命が櫛名田姫に会えなかったらどうするんですか!!大国主命が生まれなければ、国譲りが出来ないじゃないですか!!」
神武天皇が…、百二十五代続く万世一系の皇統が…。
ああ、天照大神様に何と言い訳すれば…
打って変わってさめざめと泣き出した菊が、零す単語にギルベルトはギョッとした。
天皇?皇統?
何で、あんな棒っ切れ一本で、そんな大袈裟なことになるんだ?
言い訳をさせてもらえるなら、ギルベルトには棒を拾う気はなかった。
両手で水を掬っていたら、棒の方からギルベルトの手の中に流れ込んできたのだ。
引っかかって手の中に留まった棒切れが邪魔で、水が飲めないものだから取り除こうとしただけだった。
それだけのことなのに、何故か菊は棒切れ一本に大騒ぎをしたかと思うと、次にはとんでもない単語を零しながら泣きだした。
「あのー、菊さん?」
「…」
「もしもし?」
「…」
恐る恐る声を掛けるが、菊の反応はない。
俺様、何をしたんだろう?
今更ながらに不安になってきた。
泣き声がぴたりと止んで菊が何かをつぶやいた。
「菊?」
そろ〜っと顔を覗き込む。
「ひっ!?」
いきなり腕をガシッと掴まれた。
いや、だから、俺様は…。
「師匠!」
俺様を睨む黒真珠の瞳が爛々と光をたたえている。
「嘆いていても仕方がありません。起こってしまったなら修復するまでです。師匠、責任取ってもらいますからね」
無表情の仮面に底冷えのする声が俺様を絡め取った。
*****
と、まあ、こんな感じです。
この後、ギル師匠は軍事国家杵柄発動して、ヤマタノオロチを退治しちゃったりして、祖国様から、
「何やらかしてんですか、あなたはーーっ!!あなたがヤマタノオロチを退治してどうするんですかーーっ!!」
と、激怒させて泣かせているに違いありません。
明日、日本国の歴史が変わっていたら、ギル師匠の所為です(断言)。
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