★2019〜2020

○犬は春風
○犬は春風ころがっている
○月夜かな梅は知らず
○なんといふ恋して森と林
○ぽたぽた若さよくある
○ほうたると南空
○たったひとつの石ころ歩いた道
○空瓶に酒にほふほうたるとんだ
○釈迦が死んでいるような樹でねる
○俳句ブームにひとり
○平成の春の山
○元号月昇り梅の花
○皆がしあわせそうだ風の中
○女湯まど開けて春風
○いぬころついてくるいつもより長い道
○若松これだけ残つている
○胸いっぱいの草花つばくろ来る
○雨東京の春しずけさの信号機
○穴空いてあるさくらさくら
○東京高架下に入って春の雨
○無人の寺で彫つた青く梅
○燃えていたのはわたしの青
○底辺の空間山へ月冴えている
○鳥の声を聞いて山の中へ虫の声も
○手にいっぱいの空がふかふか
○胸を張ってみた何もかも忘れた夕暮れ
○猫の頭突き夜は二人
○さくらさくら一本の山桜風の中
○観世音松の緑
○どんよりした雲もわたしの一部
○仏さまというだけで歩きつづけた
○東京にどっと横になる美しい
○ビルを推し返したわたしの夢
○燃えている人の手にふれた秋の空
○虫もないているみんな泣いている星の中
○草も枯れたので家に帰る
○いぬの尻尾が早くて目が回る
○きのふの暑さを海がもっていってしまった
○夢跡に立つ夏
○美味しそうなお団子緑の春の山
○枕元なつかしく病んで冷たい水
○椿全部落ち雨を受けている
○椿の中が明るい雨
○椿の中が明るい女の子の帰り道
○水を汲んでいるわたしは水誰も知らない
○何かを干す農家の方の笠秋が来る
○時雨を観てひとり
○なんとやさしい手だ杖をつく
○薔薇咲いて青い空お手紙ありがとう
○わたしは青を続けている
○猫もわたしも石にほこりがすごい
○青い春にみんなひとり
○花の名前を知らないので座っている
○見上げてまた東京を担ぐ
○銭湯にたばこやに秋空
○おでんに星の雨居てくれた
○猫は下からみると悲しそう
○一日お茶を飲んでいた
○ころころした女に挟まれて酒を飲んだ
○乳を揉んでといはれ低頭した
○東京が青田だった頃波ゆらゆらゆれて
○あーラクダといってごまかすことなく林に来た
○放下して春の空

○まあるい月がはじまる
○濡れた橋を歩いている
○島の灯火に腰を下ろす犬がいってしまった
○好きという前の悪口と好きというまえの一日
○好きという前の悪口と過ぎた時刻表
○寺の前の朝陽に虫が歩き出した
○若葉に埋もれていた月明かりの夜になに咲く
○町すぎて大河赤黒き自分ついてくる
○豚がたくさん金屏風を直す人に合った
○ふるさとの雪あたたかい
○錆びた鈴帽子をかぶる
○豚と牛がたくさんの音楽学校幹をなでる猿が見ている
○海老の殻が美しい陽が落ちる
○カフェにあかつき穴を埋める
○ねむい冬の朝の石橋がこの道
○窓を開けると海近所の人の芋畑に足あと
○乳房がゆれている青い風
○ぜんぶもっていかれた葱畠
○大きく口をあけた猫の髭が長く切れている
○河骨だけがのこっている
○悲しい夕空に船岸の男の子
○歴史に名を刻み沈む日輪
○病気が申し出ている
○嫁が君と呼ばれている君よ犬が寝ている
○片目のひともいるし口切れたひともいる
○犬が見ているので脇にそれた
○耳が聞こえないという人の手が荒れていた
○猫がたくさん寝ていたので違う道を帰る
○焼きいもを買う女の人の後ろ姿
○曲がった釘と蜜柑が落ちていた不思議な日
○居るかという声が風
○花の中で寝ている昔の人自分も時代も捨てていた
○沈丁花の道案内まだ遠く
○沈丁花の好きな人の乳房あたる
○あした死んでもなにも変わらない我が身
○飛行機雲をつかまえてといふ子
○口の聞けぬ人が合うたびにくれたチョコレート菓子
○清流が見えている流れのはやさ
○人が灰になったので灰終りかと云いたいがやめた
○知らない女のテクニックそうでもない
○勉強をしなくても月が出た
○名月にうまいまんじゅうをくふ
○風がめくれてくるので逃げる
○洗ったくつが汚い
○バイオテクノロジーの洗剤靴ひも結ぶ
○そうでもない自分が風の中
○星を打つような犬の尾をみる
○きのふよってきた猫がつれない
○春を置く机に女の子であった

2020年
◯くそのような人生もコスモス
◯病人をみていた硝子瓶空になる
◯花ひらく蕾破るやうに啼いている
◯ため息とどかぬ虫の声よこになる
◯ほうたるこの指後ろ姿
◯目とじて音なく
◯みんな死んだのに始り
◯サンキューといってみた私にも苦悩はある
◯センキューといってみた私にも苦悩はある
◯ガサガサ音がする秋風あるいてもつれない
◯まつすぐな煙ションベンか
◯まつすぐな煙小便か
◯頭の良い人泣いていた両手をそろえ
◯小さな部屋が満たされている
◯毎日あると思う月もさいごも
◯雀がともだちの人しづんだり
◯明るいのに家がない
◯病人のまろみの稜蒸発せりこのみち
◯蚊と蝿のみがともだちとなる本のページ
◯蚊と蝿のみがともだちとなる本のページ数
◯美人な女のケツがきたないなめさせている
◯まっ白な米汁を夏が吸い込んで行く
◯やることもなく箸は銀河の雨
◯ぬすんだものは月とこころさようなら
◯美しい人よきりぎりす何年ぶりに会う
◯みなぎる乳房音まぶしく光る
◯乞食のくつ紐がきれいに結んである
◯病死した人も偉いそれぞれの大黒柱
◯夜明けの橋にひとり
-エムブロ-