猫のひとりごと


 思い出した話[短いお話]


2022.2.4(Fri) 00:44

箒で掃くのは良いが、雑巾がけは実に面倒臭い。
これは誰しも思っていた。故に、数の限られた箒を使えるのはジャンケンに勝利した者のみ。その次に勝利した者が塵取り係に名乗りを挙げる。残ったものは漏れなく雑巾隊。それが小学校という小さな子ども社会のルールだった。


あるとき、私達のグループは広い家庭科室の掃除当番となった。家庭科室には箒がなく代わりに掃除機を利用する。掃除機は一人しか使えない。当然取り合いになるのだが、これまでの数年にも及ぶ箒争奪戦に辟易していた私は、その頃には戦いを放棄するようになっていた。早々と雑巾を手に取り、猛烈な勢いで床拭きを行い、ここ最近はまっているひとり遊びを勝手に開始する。

ひとしきり経った頃、グループの女児2人がこちらへやってきて問うた。どうしてそんなに熱心に雑巾がけをしているのかと。私は答えた。どれくらい雑巾を真っ黒にできるか試しているのだと。
それ面白そう、と最初に言ったのはどちらだったか。なぜか彼女たちは興味を持ち、自分らも参加したいと言い出した。

その瞬間、私のひとり遊びは対戦相手を得たことで『誰が一番雑巾黒くできるかゲーム』に進化した。
3人で拭き始めると床はたちまち汚れがなくなってしまい、ちょっと拭いたぐらいでは最早雑巾は黒くならなくなってしまった。仕方ないので部屋の隅やシンク周りなど我先に汚れを見つけては雑巾で磨いてゆく。

あまりにも普段やらないような箇所を拭き掃除しているからだろうか、そのうち同じ家庭科室を掃除していた同じグループメンバーの男児3人が女児3人の奇行に気づき始めた。そしてやはり問う。何をしているのかと。私達は競争だと答えた。
今まで全く真面目に掃除していなかった男児らは、彼女たちの返答に目を輝かせる。―――俺たちもやるぞ。

かくて、教室の2倍はあろうかというだだっ広い家庭科室を端から端まで雑巾がけしまくる男児。やたら細かい箇所をせっせと磨きまくる女児。彼らのそのような姿をたまたま見回りに来た教師が目撃し、驚嘆の声を上げた。

「このグループすごい真面目に掃除してる!!」

私は誇らしかった。もとはといえば私の提案である。もとい、ひとり遊びから派生した運動である。
この事象のきっかけは私。私が起こしたのだ。

だが、私は負けた。
一番黒い雑巾は私のものではなかった。
もともと箒争奪戦から早々に離脱するようなやつである。競争に勝てる気概などありはしない。






何とも格好のつかない話で、実に私らしいだろう。








  Comment (0)



*←|→#
Bookmark


[TOPに戻る]


-エムブロ-