でてくるひとたち


たばこの匂いとマイナーコード


ホテルの大きなソファに座って、クッションをおなかに抱いて、携帯をいじっているゆうを眺める。横顔を見ていると、不思議だけれどかわいいなっていう印象を受ける。5歳も年上で、髭も生やしていて、口も悪いのに。ふとした表情が幼く感じられる。話している時の印象と真逆だから戸惑いそうになる。

じっと見つめていると、時々ゆうがこっちを向いて、目が合う。目だけで「なに?」って聞いてくるから、表情だけで小さく笑うとまた安心したように画面に目を落とした。


出会ってからひと月ほどしか経たないのに、この平和な感じはなに?沈黙を埋めるようにしゃべりまくったり、いちいち確認するみたいにべたべた触れ合っていなくても大丈夫。このままソファでだらだらして、ベッドで背中合わせに眠って、何事もなかったかのように帰れるんじゃないか、と思ってしまう。もう何年も付き合っているみたいに。

わたしだけの幻想なのかもしれないけれど。



ゆうはまだ携帯を置きそうにない。それは別に全く気にならない。することもなかったから、来る途中に買ってきたダークラムをジンジャーエールで割って飲む。カクテルには詳しくないから、名前なんてあるのかどうかも知らない。


イヤフォンで音楽を聴いていた。ジェイミー・ローソンのWasn't expecting thatを。結末は悲しいけれど、純粋にギターとピアノと優しい歌声そのものがすき。


目を閉じていると、ふっと首元にまわされる腕。鼻をかすめるゆうの匂い。

わざとにゆっくりとまぶたを持ち上げて、イヤフォンを外して、ゆうの方を向いて。

「退屈した?眠たいん?」

ジェイミーの歌声に負けないぐらい優しい聞き方だったから、思わず目を覗き込む。よくない。そんな風に甘い空気を作り出すのはよくないよ。

質問されたのにそれも忘れてしまうほどに呆気にとられていたら、小さくキスをされてしまった。

かすかにたばこの匂いを感じて、よのもとくんを思い出す。けいたはたばこは吸わない。そういえばけいたとはこういうところに来たことがない。人生で初めてホテルに連れてってくれたのはよのもとくんだったんだ。そうして、2人目が、ゆうだった。ああ、ということはわたしはまだこういうホテルに行ったことがないことになるんだ。なんだか馬鹿みたい。

なにを考えているんだろうと自分で呆れる。

「一緒にお風呂入ろうや」

ゆうがそう言ったから、我にかえる。


ねえ、やっぱり、ただの友だちじゃいられないんだね。その時にやっと実感した。もう、くり返したくないのに。



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11/03 23:22
ぶっくまーく






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