ファーストコンタクト




 

「あの、こちらの学生さんですか?よろしければお話をお聞かせ願えませんか?」

 

「あ…わたし、この大学の講師です」

 

 

 

こんな幼げな娘が講師?

 

 

伊丹はその返答に、侘びの言葉も忘れてその娘の姿を見た。

 

 

 

 

 

都内の某大学で変死体が発見された。

 

その騒ぎにたまたま通りかかった学生が群がっているなかで、まともに話が聞けそうな人物がひとりだけいた。

 

 

「講師の、古谷間といいます」

 

 

 

これから聞き込みを始めようというときだった。

 

 

「おい!伊丹!」

 

その忌々しい声の主はわかりきっていた。

 

「てめ!亀山!なんでてめえがいるんだよ!」

 

「亀山…?」

 

 

その名前に深希は振り返った。

 

 

「って、あれ、深希ちゃん!」

 

「やっぱり亀山さん、こんにちは」

 

 

この古谷間という講師と亀山のやりとりに、伊丹は頭にはてなを浮かべる。

 

 

「ん?なんだよ亀、知り合いか?」

 

「おめーには関係ねえ!」

 

「っ…てめえ…」

 

「この子は古谷間深希ちゃん。俺の妹だ!」

 

「い、妹?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう何年前になりますかね」

 

「さあな、4、5年前か?」

 

「もっと前な気もしますけど…なんだか懐かしいですね」

 

 

深希は伊丹の猪口に酒を注ぎながら微笑んだ。

 

ふたりが初めて会ったのは、ある事件がきっかけだった。

深希が帰国して間もない頃であり、まだ亀山が特命係にいた頃。

 

 

「次会うときまでほんとに亀の妹かと思ってたからな、あんとき」

 

「そうでしたね」

 

 

深希はふふ、と笑ってそのときの事を思い出した。

 

2度目に会ったのは、特命係でのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「特命係の亀山ぁ〜」

 

「だから特命係のをつけるなっつってんだろうが!」

 

ある日の特命係。

資料を盗み見した特命係のふたりに釘を差しに来た伊丹は、そこに見覚えのあるお団子頭がいることに気がついた。

 

「あ、お前…」

 

「こんにちは、伊丹さん」

 

「亀の妹…!」

 

 

そう言った伊丹に、杉下も亀山もにやりと笑う。

 

 

 

「なに妹連れてきてんだよ亀」

 

「お前さ、マジで信じてたのかよ」

 

ぷくく、と笑う亀山に、またもはてなを浮かべる伊丹。

 

「深希ちゃんは実の妹じゃねえよ」

 

「はあ?」

 

 

伊丹が深希を振り返ると、深希は眉を下げて困ったように笑った。

 

 

「な、なにしょうもねえ嘘ついてんだてめえはよ」

 

「いやお前がすぐ信じるから」

 

「だあっもうなんなんだてめえ!」

 

「深希ちゃんは、俺が妹みたいに可愛がってるってだけだよ。しかもハーヴァード帰り!どうだすげえだろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあでも、関係を説明しろって言われたら難しい間柄だったのは確かですね」

 

「ああ、俺もよくわかってなかったからな、亀からお前の生い立ち聞くまでは」

 

「あれ、そんな話してたんですか?」

 

 

深希が伊丹を見ると、少し照れくさそうに「まあな」と答えた。

 

 

「気になりました?わたしのこと」

 

「は?なに言ってんだ」

 

「わたしは気になってましたよ、伊丹さんのこと」

 

「な、なんだよそれ」

 

「不器用な人だなって」

 

「うるせえ」

 

一気に顔を赤くする伊丹。

 

「最初はそれだけだったのに、いつの間にか好きになってました」

 

 

 

その言葉に耳まで熱くなるのを感じた伊丹は、猪口の中を揺れる水面を見つめごまかそうとした。

 

 

 

 

「…俺もだ」

 

 

伊丹は酒を飲み干し、深希がまたそこに酒を注ぐ。

 

 

 

 

「しらねえうちに、特命のおまけのはずの女に会いたくてよ」

 

 

深希は微笑んだ。

 

 

「そしたら今度はふたりで会いたくなっちまって」

 

「ええ」

 

「触ってみたくなってよ」

 

 

深希は黙って伊丹を見ると

 

 

恥ずかしそうに頭を掻いて、笑った。

 

 

 

「わたしもそうでしたよ」

 

 

深希は伊丹の腿にそっと触れる。

 

 

「気づいたら伊丹さんのこと考えてて」

 

 

伊丹が深希の目を見る。

 

 

「側にいると身体が熱くなって」

 

 

どちらともなく指を、絡ませた。

 

 

「触れてほしくて、どうにかなるんです」

 

「一緒だな」

 

「今もそうですよ」

 

「ん?」

 

「だって、もう知ってるから」

 

「なにがだよ」

 

 

わかってるよ、お前が言いたいことは。

 

でも聞きたい。

 

深希の口から。

 

 

 

「それがすごく幸せで…」

 

深希が頬を染めて言う。

 

「それが、わたししか見られない憲一さんだってこと…知ってるから」

 

 

 

伊丹はその言葉に満足して、そっと口付けた。

 

 

 

「すげえ優越感だよな」

 

「へ…?」

 

「お前が、キスだけでこんなやらしい顔するなんて誰もしらねえ」

 

 

深希は身体の芯から熱くなるのを感じた。

 

 

「伊丹さんだって…」

 

「ん?」

 

「そんな顔するなんて…知りませんでした」

 

「俺だって知らなかったよ」

 

「あ…っ」

 

 

首筋に噛み付いて、ひとなめした。

 

 

「こんな風にされちまうなんてよ」

 

「…ん…あ…っ」

 

 

 

 

 

 

証人の欄だけが空いた婚姻届はそのままで、お互いの熱に溺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



11/02 00:30
[伊丹]

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