これを書いてるのはすっかり21日ですが、夢を見た日が16日ですんで記事の日付はそちらに合わせています。
俺が俺として出ていた夢のはずなんだけど、
なんかグロ成分も含んじゃってたからダメな人は見ないでね。
追記にたたむ。
夜の暗闇の中に外界の光がドアポストから僅かに差し込んで、受け箱の無いそこから物が落ちた音が響く。
ごとり。予定も無い夜半過ぎのその音は、家族と俺を瞬時に警戒させるには十分すぎるきっかけだった。
「こわいよ……」
いつもの癖で玄関からの死角に身を潜めてから、明らかに異常なその出来事に妹がぽそりと呟いた。
俺も、怖い。
でも、確認しないで「何かいるかもしれない」に2人で朝までずっと怯える方が、もっと怖い。
窺うように数回開閉し続けるドアポストの向こうの相手を確かめる為に、足音を立てないようゆっくり近づいて、俺はドアを開けた。
結局は、人間だった。
相手は4人組のグループで、ドアポストから覗いていたのは主犯格の男性。学生からやっと卒業したような、若者たち。
様子を窺うという仕事だけを全うしているのか、それとも主犯格が何か命じていたのか。
俺とそいつだけで朝までひたすら取っ組み合って、殴り合って。
武器を持っていた俺の方が僅かに優勢だった。刃物じゃなかったから相手は死なずに済んでいた。なんか硬い物で殴ってた気がする。
決着が付いた頃には空は僅かに白んでいて。
遠くから聞こえるパトカーのサイレンを聞いて、相手グループの内2人が逃げていく。追い駆ける元気は無い。そもそも俺は足遅いし。
でも、俺と主犯格の取っ組み合いをずっと近くで眺めていた、グループで唯一の女はそのまま逃げずに。
「アンタは逃げないでいいの」
主犯格はぶん殴られた場所が悪くて地面でのびている。決して死んではいないけど。
俺は地面に座るのが嫌で、のびてるそいつの背中に腰かけたまま、黙って空を眺めているその女に問いかける。
女は澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んで、ゆっくりとこちらを振り返る。
「私は、彼と一緒にいたいから」
今まで無表情だった女は、目を細めて僅かに笑っていた。
ふうん、そう。呆れるように鼻を鳴らすしかできなかった。
せっかく可愛いのにこんな事して、バカな人だ。
巻き込まないでよ、俺達のこと。俺だって家族と一緒に居たいからこうなったワケだし。
「それは勝手だけどさ、次はもっと善い事を一緒にやりなよ」
そうかも、と女は一言だけ。
◆
時間は空いて。
寝て起きた頃にはもう昼過ぎで。玄関口では母さんと近所のおばあちゃんの世間話が聞こえる。
ドアを開けて2人へのご挨拶を済ませて、干してる洗濯物の様子を見に家の裏へと回る。
なんかいるなあ。
壁を這う配管の上に居ちゃいけないような質量の、人間が寝転がってるなあ。
よく見なくてもあの時に逃げたグループの2人の内の1人、ヒョロガリ眼鏡の方だ。もう片方は覚えてない。
休日の親のように片肘を付いて、寝転がっている。細長い配管の上に。
「殺しに来た」
ドヤ顔でそう告げてくる。
絵巻物で描かれがちな典型的なオタクみたいな顔してるからキモいだけだな。こっちは必死こいて逃げてる時の顔も見てんだぞ。
「いいけど後にしてくんない?」
つっけんどんに言い返して、俺は黙々と洗濯物を取り込み始める。冬だからやっぱりもうカラカラに乾いていた。
花粉も飛び始めるからぼちぼち室内干し一本になり始めるかな。母さんと妹、花粉症だし。
俺が洗濯物を取り込んでいる間、そいつはずっとドヤ顔してた気がする。視界の隅っこでチラチラ映ってウザかった。
洗濯物を家に入れて、そろそろ冷えるからと母さんとおばあちゃんも家に入れたり帰したりして。
家に1本しかない包丁を抜いて、また俺は外に出た。
「おい!」
流石に配管の上から下りて来ていた。カンカンなご様子でいらっしゃる。
無視されて怒るなら犯罪向いてないよ。
何かされる前に首に包丁を突き立てた。
のに、この手応えは“絶対に違う”、殺せていない。その証拠に血も出ない。
気が付けば相手は人の形から外れている。
こいつクリーチャーじゃないか!!
「うう、う!」
分厚い肉色のエイのようなクリーチャーの姿へ変貌した、元ヒョロガリ眼鏡に冷たい石の床に押し倒される。
デッドスペースっていうゲームで出てくるクリーチャーにちょっと似てるけど、そのゲーム通りに行ってしまえば俺はこのまま首ポロリして、体組織ぐちゃぐちゃに組み替えられて、クリーチャーの仲間入りさせられちゃうんだよな。
そんな事あってたまるか。それ以前に俺が負けたら次は家族と近所の人だぞ。
そんなの許せるワケないだろうが!!
「あぁあ゙!! クソクソクソ!!」
エイの身体の下、俺の腰元で振り上げた包丁の刃がエイに突き刺さる。脂の塊に突っ込んだような柔らかいべたべたした手応え。
すぐさま柄を両手で持って、思いっきり頭の上まで柄を引っ張るように切り裂いた。
押さえ付けられる力が無くなってすぐさま立ち上がる。血のような油のような何とも言えない液体でベタベタになって気持ち悪い。
エイは悲鳴らしい悲鳴も上げないまま痙攣を繰り返し続けていて。
えっ、クリーチャーってどこまですれば死ぬんだ……?
とりあえず更に身を切り分けていく。最悪個別にトイレにでも流すしかないかな……。
一番分厚い所に刃を入れれば、たぶん心臓と、脳みそと、内臓の塊ような部分がでろりと漏れ出してきた。
握り拳程度の大きさの心臓らしき部分がトクトク小さく脈打っていて気持ち悪い。コレが心臓だとして、まだ生きてるんだ。
じゃあ殺さなきゃ。念のため踏み潰した。石の床と靴に挟まれて、厚いゴム底越しに伝わってた脈打つ水入り風船のような感触が破裂する。
脳みそみたいな部位も同様に。よっと声を出してジャンプして、両足で踏み潰す。
そこから数歩足踏みしてみれば、雨の日の翌日の花壇みたいなぬかるんだ感触が弾けた。
内臓みたいな部分は包丁で切り分けた方が早いだろう。面倒だけどちまちま切り分けていく。
こいつの肉、テレビで見たアンコウと似てる気がするな。食った事無いから気がするだけだけど。
これでよし。すっかり痙攣も止まったクリーチャーの死体だった肉片が散らかっていて、臭くて気持ち悪い。
あとはこれをホースの水で流したら、お風呂入ってもっかい寝よう。
おしまい。