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メアアリ10話


何もしなくても時間は流れていく。
こんな過ごし方、もともとは性に合わないはずだが、今は本当に何も出来ない。

(じわじわとくるわ、これ)

ブラッドがいれば、一緒に読書したり、言葉はなくともコミュニケーションを交わしたり、それなりに愉しんでいる。
けれど、ブラッドがいないと成り立たないということ。
それだけを縋るように待つことには、抵抗があった。

ざりざり、ざりざり。
薔薇園の隅で、何とも無しに手元の土を掘る。
猫のくせに独りでは眠れない私には、これぐらいしか時間の潰しようもなく、最近では癖のようになってしまっていた。
土だらけになった手足を、ブラッドが微妙に嫌な顔をしつつもタオルで拭いてくれるのがちょっと小気味良いというのもあるが、全く生産性のない行為だ。

(っていうか、ブラッド来ないし)

何か立て込んでいるのだろうか、ブラッドは最近さらに訪れる頻度が減っていた。

ざりざり、ざりざり。
小さな獣の手は、どんどん土を被って黒く汚れていく。

(――この手も好きって、言っていたなぁ。)

ふと、思い出す。
もう、ずっと前のことみたいなことを。

(あれ?この手も、の『も』ってなんだっけ?)

でも、伝っていく記憶が、微かに零れていっているのも感じていた。

銀色の髪は、いっそ小憎たらしいほどに綺麗だった。
けれど、それはシルバースプーンのような色だったろうか?陽に透ける雲のような色だった?

少しだけ冷たい手で、柔らかく触れられると嬉しかった。
けれど、少しって、どれぐらいだっただろう?

子どもみたいなことも言うのに、落ち着いた大人みたいな言葉も吐く、不思議な深くて低い声も好きだった。
けれど、それは、どんな音だったろうか?

大事な記憶はどれほど手繰り寄せても、最早現実ではなくて、酷く曖昧なものに成り果てていく。
独りと、二人で過ごしてきた時間が積まれていくごとに、記憶は朧になって色みを失くしていくのだ。

ざりざり、ざりざり。

(こんなことしたって、犬じゃあるまいし‥)

どれだけ小さな手で土に穴を掘っても、その下に宝物も、ましてや異世界に連れ出すウサギも出てきたりはしない。


「‥‥こんなところにいたのか、お嬢さん」

背後から、脇の下に手を入れて抱きあげられて、身体がびくりと震えた。
ひっくり返され正面を向かされると、また真っ黒にした手をみてピクリと片眉をあげるブラッドと目が合う。

(たいてい地面に手足つけてるんだから、そんな変わらないでしょうに。)

ここに来て、改めて知ったこと。
ブラッドは結構綺麗好きだ。
一度、薔薇園のテーブルの上に乗ったら、「君でなければ、撃ち殺しているところだ」と低い声で凄まれ、肝を冷やした。
一応、自分の名誉の為に付けくわえさせてもらうと、そのときはお茶会や食事中だった訳ではないのだが、それでも彼には許せなかったらしい。
そして、ベッドで眠るときや、こうやって手足が汚れたときには、こまめに濡れタオルで拭いてくれる。

(猫飼ったこと、なかったんだろうなぁ‥)

そんなことを思いながら、されるがまま、手足を拭いてもらい、抱きあげられる。
連れて来られた園内のテーブルには、すでにティーセットが準備されていた。

「さあ、お茶会をしようか、お嬢さん」

「みゃ」
(いいわよ)

言いつつ彼は、自分の膝に私を乗せる。
そして、お気に入りのティーカップに注がれた紅茶を一口口にして、ほうと息をついた。

「それにしても、猫と遊ぶのもなかなか楽しいものだが、このお茶の時間だけは物足りないな。」

(まあ、私はテーブルに着くことすら叶いませんからね。)

言葉に出せない悪態を思いつつ、ブラッドのお腹の辺りにぐりぐりと頭を撫でつけてから、顔をあげる。

「みゃあ、にゃぁー」
(あなたなら、別に独りでもお茶を楽しむでしょう?)

「ん?
 ああ、もちろん十分楽しめる一流の茶葉だが、やはり理解ある友人とこの素晴らしさを共有するのも格別だろう?」

「みゃぁあ」
(それは、そうね。)

人としてお茶会に招かれていた時、紅茶のうんちくを聞かされつつも、香り高いお茶を素直に喜べば、満足げに笑っていたブラッドを思い出す。
 
「そろそろキミとまたお茶を飲みたいものだ。」

言われながら耳を撫でられ、ただぼんやりとその感触を享受する。
一緒にお茶を飲む。
当たり前だったことが、今ではあまりにも遠いようなことのような気がして何も返すことができず、そして彼も何も言わなかった。
そうしてしばらく静かなお茶会が続くと、ふとブラッドが口を開いた。

「ああ、そうだお嬢さん、ゲームをしよう。」

「にゃ?」
(ゲーム?)

猫としてここに来てからも、チェスに付き合わされたりはしている。また、そういったゲームをしようと言っているのだろうか。
取ってつけたような提案に小首を傾げる私を、ブラッドは再び抱きかかえて立ちあがる。
上がった視界からテーブルを見下ろすと、彼の飲んでいたティーカップは空になっていた。
続いて、歩き始めた彼を見上げれば、楽しげに口角をあげている。

「そう、私が勝てば、一つ私の好きにさせてもらう。
 だが、君が勝てば、一つ君の願いを叶えてあげよう。」

(え?)

付け加えられた説明は、さらに首を傾げるものだった。
わざわざそんな賭けをしなくとも、彼は今、存分に私を好きに扱っているのだから、彼が勝って何のメリットがあるのか分からない。
しかし、勝てば私の願いを聞き入れてくれるというのは、とても都合の良いチャンスのように思えた。
私は、彼の胸を叩いて身体を精一杯伸ばす。

「にゃあ?」
(何でも?)

「ああ、何でもだ。」

にやりとして、答えるブラッド。
その表情をみて、たちまち冷静になった。

(‥‥‥‥胡散臭いな。)

この男が自分のメリットなしに、タダでこんな提案をするはずがない。
そもそも、願いを叶えるだなんて、しゃべれない猫の願いを、彼がどう聞いてくれるというのだろうか。
一瞬でも期待した自分を恥じつつ、また大人しく腕に収まった。


どうやら、彼の私室に向かっているらしい。
今日は、チェスだろうか。それとも、何か別のボードゲームでも見つけてきたのだろうか。
ブラッドがどんなつもりなのか分からないけれど、それでも薔薇園で独りよりはずっと良いので、報酬には期待せずゲーム自体を楽しむことにする。

(――ん?)

部屋に通された瞬間、何か、どこかに引っかかりを感じたが、ローテーブルに置かれたチェス盤に気づいて、意識がそちらへ向かった。

「にゃあ?」
(チェスをするの?)

ずっと連敗が続いているが、今日こそは勝ってやろう。
作戦を練ろうかと思ったところで、ブラッドは、いいや、と否定の言葉を発し、私をソファへと下ろした。

「にゃ‥」
(な‥)

―――ふわり。
声を出そうとしたとき、本当に、僅かに、だった。
いつものほのかな薔薇の香りがする部屋に、ほんの微かに異なる物が混じっていて、それが鼻腔に届いた途端、身体が固まった。

(‥忘れていない、忘れていなかった。)

ソファから飛び降りて、扉に近づく。

猫足のお風呂の石鹸の匂い。
そこに、甘い、葉巻の香りが混じっていて。
でも、もし同じものを使ってる人がいたとしても、きっと嗅ぎ分けられる。
――これは、彼の匂いだ。

開けることの出来ない扉に、カリカリと爪を引っ掛ける。
匂いも、ほんの一瞬だけでもう消えかかっている。
実際応対していたであろうブラッドと、先ほどまでゆっくりお茶会をしていたのだ、とっくに帰っているに決まっている。
それでも、身体が勝手に動いていた。

話したいことがいっぱいあった。
ブラッドのところで出されるご飯は、なんだか凄く美味しかったから、今度是非購入元を聞き出しておいて欲しい。
この間読んだ本の新刊は、予想外の展開でとても面白かった。貴方も読んでみると良いと思う。
薔薇園から見える夕日は、本当にぽってり大きくて、柔らかで、でも凄くさみしくなった。
楽しいこと、発見したこと、寂しいこと、心が動くたびに、いつも伝えたい人を思い浮かべていた。


(ずっと言えなかったけど、会いたいの)


つき動かされるままに、強く、声を張り上げる。


「みゃぁぁー!!」
(ナイトメア!!)



きぃ、と扉が開いた。
動いた扉から床へ手をつけると、視界に影が落ちる。


「――‥やっと、繋がった。」


見上げた目の前に立っていたのは、いるはずの無い、けれどずっと会いたかった人だった。


.

バンドパロ2

「なぁ、千冬…確認したいんだけど、この部屋ってさ」

隣に立つ友人に話しかける声が震える。
2人唖然として立っていた。

「東京卍会様、って貼紙あるのは俺の目悪くなったんかな、相棒」

どうしてただの一般人でしかない俺たちが、こんな関係者通路を通され関係者中の関係者の控え室らしき部屋の前に立っているのか。
さっきまで2人して、ステージに向かって腕と声を張り上げていたはずだ。

「そ、そうだ。1回整理しようぜ、相棒。」

「そうだな、さすがだぜ千冬。」

マイキーくん転落事故があったライブの次の東京公演。
今度は千冬を誘おうと2人分確保したチケットもまた良い整理番号で、千冬をなんとか口説き倒した俺は一緒にライブ参戦した。
千冬もちゃんと予習までして楽しんでくれて、すっかり魅了されたようだ。アンコール前の休憩時間では、「ヤバい、場地さんマジかっけぇー!」ばかり繰り返していた。
今回は1柵目やや下手(しもて)でモッシュしたりして身体全体で楽しむこと優先にしていた。前回の出来事から何となく中央エリアは避けていたからだ。

「それなのに、なんでこうなった? 」

ターミナル【高主SS】

「――先輩、知ってますか?
人は生きてきたように死んでいくらしいですよ。」


隣で教科書を読んでいた高階がおもむろに言った。
二人座っているソファの上やテーブルには他にもプリント類が散らばっている。こんなところでテスト勉強するなと言い出そうとしていた矢先で放たれたその言葉に、思わず「ハァ?」と漏らす。
俺があまりにも怪訝な顔をしていたのだろう。高階は目を細めて説明を加えた。
「つまりですね、その人の生きざまが死にざまに反映されるんですって。そう教科書に書いてあるんですよ、ホラ。
まぁ、そうとは言い切れないこともたくさんあるだろうとは思いますけど。かわいそうって言われてしまうような死に方したからって、その人の人生自体かわいそうだった訳ないですもん。」
言いながら見せてきた教科書には、確かにそのようなことが書いてある。
全ての人にあてはまることでも勿論なさそうだが。
「……ふーん…」
自分にとって専門外の分野の教科書と言うのは、理解の範疇ならば意外と興味深かったりする。そんな物珍しさに読んでいると、高階は背中から抱き寄せ、こめかみに唇を落としてきた。慈しむように与えられる小さな熱から、甘い痛みが広がった。
「…ん。なんだよ…」
「ね、先輩聞いて?
…それでね、俺思ったんです。
俺の最期の時に先輩のことを考えて幸せいっぱいだったら、俺の人生は、先輩がいて幸せだったってことにできるかなぁって。」
「――っバ…!」
耳に唇をよせて、優しく紡がれた言葉。
言葉が意味を持って心に落ちて、弾くように振り返った俺に、高階は柔らかく微笑んだ。
窓から漏れてくる光に反射して睫毛はきらきらして頬も少し赤く染まっている。なんだか無性に綺麗でじっと見つめてしまっていた。
言葉が、冷たい息と一緒に飲み込まれてしまう。
「あぁ、ずっとずっと未来の話ですよ?一緒におっさんとか、おじいさんになってからです。」
そうして幸福な未来の言葉をさらりと言われ、胸の中心に熱がトクトクと生まれていることが自分でも分かる。
けれども、どこか泣きだしたいような気もして。
なんだか自分がわからなくなってきていた。
「ん、どうしたんですか?真っ赤ですよ?
…ホントいっつも可愛いなぁ」
よくあるからかいの言葉をかけながら、ぎゅっと強く抱き込めてくる。
抱きしめられた圧力で、泣きだしたいような気持ちもまた溢れてきてしまいそう。
「カワッ…!?赤いのは陽があたってるだけだろ。
それで結局なにが言いたいんだよ」
いつものようなやりとりの返しを、反射みたいにしてしまう。すこし目を吊り上げて悪態をつく。
何にも大したことが言えなかった。
けれど高階は黙って、そんな俺の目元にも唇を落とす。ひとつひとつ丁寧に慰めるように撫でられる感覚。
そうしてようやく自分が泣いているのだと気付いた。
どうして、これほどそばにいて未来を語られているのに、いま、心許無いような気持ちにもなっているんだろう。
分からなくて、ただ瞳を閉じると、俺の首もとに顔を埋めた高階のくぐもった声が耳に届いてきた。
「だから、ね。
死ぬときたくさん思い出せるように、いっぱい幸せな思い出作りましょうねって。
そうできたら…いいのになぁって。」

瞳を閉じて、その最期の瞬間に貴方の笑顔が浮かべられたら、君のために生まれてきたと幸福に塗り替えることができそう。
ようやく手に入れた穏やかな日々が、もしもまた崩れたとしても、この胸にただ、想いが記憶が埋め尽くされていれば。
きっと、幸せな死に様になる。

「できたら良いのにじゃなくて、するんだろ?」
「ふふ、はい。」
やっと返せた言葉は、やっぱりちっとも大したことがなくて。
それでも高階が微笑んでくれたから、俺の方が嬉しくなって手を繋いで指を絡めた。
今晩の夕飯の相談をする合間に、啄んだり絡めたり、何度も唇を交わす。
お互いの記憶を埋め尽くせるように。
いつかの餞の幸福をたくさん貯められるように。



End.

オタク保健師の徒然

先に簡単に自己紹介を。
2009年の新型インフルの地獄も知ってる中堅の端くれ。
オタクの根幹はL'Arc~en~Ciel。
2次元はそのときどきで沼が変わりますが、この2年では、鬼滅、ツイステ、東リベ辺りです。


2020年8月初旬。
明日からコロナの担当行ってね、とサラっと言われたのが始まり。
地方なので、本格的に毎日陽性者が出始めたのが2020年の夏。人の体制もマニュアルも整ってなくて、大混乱。
集団検査の方法を職員誰も知らないのに、明朝集団検査仕切ってきてと担当変わって2日目に行かされ、今思えば相当危なっかしく効率悪いやり方で行った。炎天下でフル装備で、フェイスシールド3時間つけっぱしてたら、額に帯状のあせもが出来た(ちょうどフェイスシールドのスポンジクッションが当たる)という伝説を残した。

9月は氣志團万博のオンライン開催がめっちゃ響いた。エンタメの力を感じて涙が出た。

2020年10月といえば、忘れていけないのは鬼滅の無限列車公開ではないでしょうか。
友だちと観ることは叶わなかったけど、それでも日常の楽しみとして映画館へ行けたことは不安と同時に嬉しくもあった。
この映画で、コロナ後から初めてまともな外出したという人もいた。鬼滅映画行ってて感染したとか、映画が社会的な悪者扱いにならなくて本当に良かった。私たちみんなに希望の灯火を与えてくれたと、今でも思う。
私はというと仕事の休みが少なかったので、朝昼2回乗車したり、新規グッズ買うためだけに朝から映画館並んだりしていた。
そしてミスドのさつまいもドーナツ食べたり、さつまいもご飯炊いたりして、煉獄さんを偲んだのだった。わっしょい!!!
無限列車の列車フィギュア買って後輩に自慢したら「なんに使うんですか?」ときかれたのも良い思い出。眺めて想いを馳せるに決まっているだろう!!!!

年が明けてのお正月1月2日も風が吹きすさぶグラウンドで集団検査してたなぁ。
夜中1人で事務所いたときに、某院内感染で次々発生届FAXきた日は震えた。上はこんな時間に職員応援呼べないっていうし、ご家族さまに対応遅いって怒られても1人じゃどうにもならんのよ。
春前に落ち着いて一瞬だけもとの所属に戻れたけど、つかの間の休息だったのであった...


ときは流れ令和3年4月。
またコロナ対応のチームに戻るよう言い渡された。
この頃から少しずつ施設対応も増えて来てた。フェイスシールドに眼鏡のくもり止めを塗ることを覚えた。
GWもまともになくて、このへんから人事課に呼ばれ初めた(長時間残業)
4月20日に緊急事態宣言出たのに、なかなか地獄が明けなくて、やっと6月くらいから、まともに帰れるようになったと記憶してる。
その中でL'Arc~en~Cielの30周年が始まった。
最初に解禁されたムービー。号泣した。
緊急事態宣言で苦しくなるサービス業。
緊急事態宣言が出ないと患者減らなくて地獄の保健医療。どちらも限界の中で生きてたし、ピリついてた。
「すべての人が傷ついている」と表現した上で、ラルクが少しずつ少しずつやれることを始めてくれたのは、救いそのものだった。


満を持してやってきた、2021年夏のデルタ株。
入院が必要な人がゴロゴロいて、でも入院先がなくて、怒鳴られながら謝ることが何度もあった。
死なないでと祈るしかできない。無力だった。
この頃は確か、濃厚接触者全員に連絡とって検査つないで14日間の健康観察する方針の頃だったけど、急激に増えて体制が追いつかなくなった。
最大の大混乱。
深夜になって活動限界が来たらフラフラと帰る。
苦しんでる人がいるから対応を縮小する訳にはいかない頃。
直属上司(女性)はいつでも鞄にお泊まりグッズをいれ事務所やネカフェに泊まったりしていた。
自転車や車通勤の人が深夜2時くらいまで毎日残っていた。
1人で事務所残って2時くらいに残務処理してると涙がボロボロ出た。

2021年秋、ラルクのツアーが始まった。
まだ所内で陽性者はいなかったし人員は常に足りていなかったから、ライブに行って感染したなんて絶対に起こせなかった。
考えうる限りの対策して車で遠征した。マスクを外さないために、ライブ会場では水一滴すら飲まなかった(ガチ)
ライブでは、夏の地獄も超えてついにここまで来たんだとか思えば感動もひとしおでずっと泣いていた。
バンドメンバー誰も感染せず、大きな問題も起きず、12月までツアー完走されたから本当にすごかったと思う。
ラルクが無かったら私はずっと外出出来なかったんじゃないかと思う。踏み出すきっかけになってくれた。
そしてこの秋頃のおうち時間で、東リベにどハマりし始めた。
フィリピンマイキーが昔のhydeさんに外見似てたからという理由だったんだけど、絵の美しさやカラー絵の衣装の美しさにやられた。
hydeさんのアコースティックツアーでハロウィンの頃にマイキーコスしたと知った時は血の涙流しました。行けなかったのが悔しくて悔しくて。


それから年を明けて2022年。
成人式の同窓会から着火してオミクロンが上陸した。
記憶がほとんど飛んでるけど、また毎日日をまたぐほど調査に追われていた。
3月には、核となっていた上司や先輩の退職、人事異動で人員が半減するという仕打ちも受けながら、桜も連休もよく分から無かったけれど、5月ラルクのラニバライブには行った。まだ新幹線乗る勇気なくて車で片道6時間かけて行った。


そして数の暴力第7派。
職場は妊婦さんでもお子さん小さい人でも深夜まで働く闇の不夜城だった。それでも終わらない。
発生届の数がこれまでの次元を超えてた。人間が印刷出来る限界を超えてた。プリンターもコピー機も何度も壊れた。
同僚が泣く赤ちゃん背負いながら電話対応してる姿は、なんでここまでしなきゃいけないんだろうと思った。
ただ、物凄く悪化する人は去年の夏より圧倒的に減ったのも明らかで、それだけが希みだった。アルファやデルタ株のままでは65歳以上の限定化とか待機期間の縮小は有り得なかったと思う。
そしてようやく落ち着き始めた秋。
しかしあっという間にやってきた第8波。
シフト制で事前に休み申請出来たので、東リベ最終回は休んだ。

最初は、治療法もワクチンも防護衣どころかマスクやアルコールも足りなくて、ウイルスの全容も見えなくて、人動を止めるしか人命を守る術が本当になかった。あれが無意味だった訳では無いと思ってます。
でも今はようやく、経済も回しながら医療も続けるという総力戦ができるまでになった。それでもかなり医療にとっても苦しい犠牲を払った総力戦。

春になったら5類になると言われてます。
私は専門家とは違う実働部隊なので、これからどうなるかはなんとも言えませんが、たくさんの人が健康に自分の好きなことができる世界を願います。

ふたたん

ワイングラス片手に2人並んでソファーに座り、ひとつのスマホを覗き込む。スマホを持つ昌悟の手に被せるように自分の手を重ねた。こんなことをしてみても、彼はもう全く反応しないほど日常の触れ合いになっている。
「はは、これ見ろよ。槌谷、相変わらずアホなことして……ん、なんだよ?」
昌悟はスマホから目を離し、少し眉を寄せてこちらを見た。
夏休みに3人で会った時の写真を一緒に見返していたはずなのに、俺が彼の目尻に指で触れていたからだ。
「いんや、素敵な笑い皺がありますね、と思って。」
「は?そりゃお互いおっさんになってってんだから、皺くらい増えるだろ。」
「おっさん言わないで…二見くん、ちょいつらい。」
「事実だろ。」
一緒に居るようになって、ちょうど17年。
付き合う前の人生と同じだけの年月が経っていた。
何も変わってないなんて世辞を言うにはさすがにきついかと思うくらい、互いに歳を重ねている。かと言って完全に受け入れられるほど達観もしておらず、加齢を感じさせるワードにはまだ少しナイーブだ。
(こんな歳になってもまだ一緒にいるなんて、自分にも昌悟にもびっくりですけどね。)
認めたくなかった恋心。それでもつまらなそうな横顔をなんとか向かせたくて、めいっぱい優しくして、たまに笑ってくれたら浮かれるほど嬉しくて。
でもどうせ高校生に出される大宇宙の大いなる指令なんて、一時的なものなのだろうってどこかで思っていた。実際大人になるほど、好きだからだけではいられないこともたくさんあった。
なのに今でも、朝の珈琲を飲んで身支度をして各々出勤して、早く帰った方が夕飯を作って一緒にゆっくりとした夜を過ごす。それが当たり前の一日。
そんな日常の中での、今日は少し特別な日。
「知ってる?普段からよく笑ってる人に笑い皺って出来んのよ?」
そう伝えて、きょとんとした顔の彼の目尻に口付けをした。そしてワイングラスをテーブルに置く。
実は高校生の頃、昌悟は将来眉間の皺が固定されちゃいそうだなーなんて、厳しい顔の教頭の顔を見ながら思ったりしていた。スミマセン。
それぐらい、表情の固い子だったと記憶してる。
(それなのにですね…。それって)
「…そりゃ、馨といるからだろうな。」
甘い自惚れの膨張は、躊躇いのない彼の言葉の潔さにぴたりと遮られた。
背中から腰に回していた左手の動きも思わず止めてしまった。そんな俺の手を彼の左手がすくい上げて、薬指の指輪を口付けられる。
「これだけ一緒にいて、俺が変わる理由にお前が関わってない訳ないだろ。何言わせてんだ。」
「いや、そうでしょうケド。」
恋人の放つ言い様は、あっけらかんとしていて、ちっとも情緒が無い。
でも、それぐらい当然ということだろうか。
俺は、貴方をたくさん笑わせられていた?
ひとつの答え合わせのようなものに、自惚れどころでない途轍もない多幸感が溢れる。
「こうやって不意打ちすると赤くなって泣きそうになるの、全然変わらなくて相変わらずすごい愛しいよ、馨。あらためて誕生日おめでとう。」
「どーも。
それ見て嬉しそうに笑うのも全然変わんなくて、相変わらずすごい好きで堪んなくて、悔しい思いです、昌悟。
付き合って17年記念日ありがとう。」
そう言って口付ければ、初めてしたときには想像にもしなかっただろうワインの香りが掠める。

さよなら大宇宙。今日も明日に向けて、愛しさを重ねてく。




二見馨 HAPPYBIRTHDAY!!
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