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【短編】





好きな人がいます
年下だけど頼りになります

「なんで敬語なんですか?」

「え、仕事だからです」

「俺年下なのに」

一瞬ドキっとした
最近まで敬語なんて使っていなかったのにわざとらしく敬語を使いはじめたことをこんなにも気にしていたなんて気が付かなかった

「…気にすることないですよ」

「距離を感じます」

「そんなことないです」

何故好きなのにあえて距離を取ってしまうんだろう

自分でも素直じゃないのは分かっている
素直になれないのには理由があるから

「(だって、デートに誘ってくれないんだもん)」

待ってるのにね

彼が二月程前に「今度デートしてください」って言ってくれてからそれっきり

私はいつでもいいから適当に休み合わせていいよって言ってあるんだけどなぁ…

「俺のこと嫌いですよね」

「そんなことないですよ」

他の女の子は車に乗せて何処にでも連れて行くくせに

もう関わるのも面倒になってきた

だから私は敬語で距離を取る

『あなたのことなんて好きでもなんでもないんです!』

みたいなね

だって私だけ焦がれて待ってるなんてバカみたいじゃないですか

「(待ってるのにいつになったらデートしてくれるの?なんて言えない)」

だって嫌われたらどうしよう
好きな人だから、気にする


「俺のこと嫌いですよね」

「だから好きですって」

「え、」

まずい、本音がでた

「間違えました」

考えながら会話してるとうっかり本心で喋ってしまった
すかさず表情を変えずに訂正する

「俺は好きです」

「え、」

「間違いじゃないです」

こいつこんなに素直だっけ?

嬉しいはずなのに疑ってしまう自分が嫌だ

「今度デートしてください」

「はい」

敬語が崩れる日も近い




年下のあいつと距離感
(私を振り回すなんて100年早いわ!)


お菓子のように甘くないので


「桜のジャムサンドクッキー美味しい…」

とある日曜日、あかりは音楽室でお菓子を食べていた
日曜といえど部活はある。吹奏楽部に休日などない
ちなみに今は昼休憩だ

「ああ、この前降ってきた大量の花弁?」

「そうそう、野球部が集めてジャム作ったみたい。で、これもらった」

「わあ…すごい女子力」

「野球部のくせに……」

というか、まるで雪のように降ってきた花弁だったのに誰も不思議に思わないなんて平和だなぁ

都合いいなあ…、と思いながら葉月の口にクッキーをねじ込むあかり

「お礼に何か作って野球部にあげようかな〜」

「そういえば葉月もお菓子作り得意だよね…」

揃いも揃って男共のほうが可愛らしい特技を持っているなんて…
あかりは若干嫉妬した

「また花弁降らないかなぁ」

「もういやーーー!!」

そういえば、あれから記憶がうっすらとしかない
アルコールのせいだろうか

「(妖怪回収できたみたいだからいっか……)」

『あかりさーーん!!』

「っ!!!」

「どうしたのあかりちゃん。何かいた?目まんまるだけど」

「いや、虫がね」

里桜は他の人には見えていないので話をする時は注意しなければならない
独り言の多い人だとは思われたくないから

「ちょっと、抜ける」

あかりと里桜は音楽室から離れた

「姿が見えないと思ったら…どこに行ってたの?」

『妖怪探しですよ〜!気配は察知しにくいですが一応努力はしているのです…』

「そうだったんだ。何か情報はあった?」

『そうなんです!最近この学校で幽霊を見た生徒が多いらしいんですよ!』

「それただの怪談話じゃない!?」

『確認する必要があります!』

「うーん…分かった。とりあえず部活戻るからまた後で!」

『では我は引き続き情報収集に行って参ります〜』

あかりは音楽室に、里桜は窓から飛んで何処かへ行ってしまった

「あ…私も能力で飛べるんだっけ。練習しておこう…」









『花のねーちゃんはもう戻ったのか?』

『あの人平和主義だし』

『次は誰がいくの?』

『誰かな』

『神の代わりは一人だけ?』

『6人いないとつまらないね』

『そのうち増えるよ』

『あんまりなめてもらうと困るよね』

『そうだね』


クスクスと何処かで笑い声がした

ダメ、ぜったい


「どうしたら……いや、飲むしかない!」

『えええええ!!あかりさんそれはだめですよ〜!中学2年生の女子が飲み比べ対決はいろいろだめです!!』

「大丈夫!うちの家系酒豪多いからきっと私もいける!」

『そういう問題じゃないでしょ〜!!』

そうだ、と何か思い出した里桜

『今だけあかりさんを20歳の姿に変身させます!』

「そんなこともできるの!?」

『我は妖怪というより魔法使いの類だと思って構いません』

あかりが驚いているのもつかの間に何やら怪しげな呪文を唱えたと思えば次の瞬間あかりは20歳の姿になっていた

「わあ…これが20歳…!髪が腰まであるよ」

『準備はいいかしら〜本当に私と飲み比べするつもり〜?』

「うけてたつ!!」

和服美人(【花】の妖怪)は日本酒一升を取り出してあかりに渡した

『20歳とはいえ飲み慣れていないあかりさん…どうなってしまうんでしょうか…』


ゴトンッ


「おいしい!いける!」

心配する里桜だったが問題ないようだ
あかりは顔色一つ変えずに飲み続けた
もう一升瓶半分もない

『一族酒豪は本当のようですね…』

「ところでお姉さん美人ですね」

『あら〜あなたもかわいこちゃんよ〜』

「恐縮です」

『なんか丁寧口調で絡みはじめたーーー!!』

どうやらあかりは飲みすぎると丁寧口調になるようだ。相変わらず顔色が変わらないので分かりにくい

『ふふ…そのくらい飲めれば充分ね〜楽しかったわ〜』

「恐縮です」

先程から真顔で「恐縮です」としか言わないあかり

『じゃあ私はそろそろ大人しく戻ろうかしら〜ありがとうね』

屋上が眩しい光りに覆われた
【花】の妖怪は満足したのか消えていた

『やりましたよ!あかりさん!回収できました!』

「恐縮です」

『あかりさんーーー!!』

妖怪も無事に回収し、あかりも元の姿に戻った








校庭に撒かれた花弁だけがそのまま残っていた


気まぐれチェリーブロッサム


『まあ…妖怪回収はあかりさん達6人組にしかできないんですけどね…』

「ん?何か言った?」

『いえ、なんでもないです』

とある放課後のこと
あかりは一人、教室で学級日誌を書いていた

「あれから妖怪も現れないし、妖怪らしき事件もない…」

『どこかに潜んでいますよ』

「そうかなあ…」

あかりは窓の外を眺めながら呟く
季節は春。校庭に植えられた桜の花が満開だった
今日も大所帯の野球部が練習をしているのが見える

「いや見えない」

『どうかしました?』

「なんか尋常じゃない花弁のせいで何にも見えないんですけど」

『妖怪の仕業ですね!』

「これが妖怪!!…っていうか妖気を察するとかそういうのないの?」

『この地域には妖気が散らばりすぎていて判別できないんです…』

「不便だ……!!とにかくこの花弁なんとかしないと!」

あかりは校庭へ向かった
そこでは練習をしていた野球部と陸上部が花弁を集めてごみ袋に入れる作業をしていた

「いやー今年はすごいなぁ」

「花弁集めてジャム作ろうか!」

「いいね〜」

「しかし異常気象かなんかか?」

「花弁なんて天気ねーし!!!野球部が花弁集めてジャム作るとかギャップにも程があるううう!!!」

異常な事態だというのに気の抜けた会話をしていた野球部一同にツッコまずににはいられないあかりだった


「どこだ!妖怪!!」

校庭に花弁が降り積もっていくだけで妖怪の姿はない

『これは【花】の妖怪ですね〜。彼女は穏やかな妖怪ですよ。ちょっと困ったこともしますけど…あとは酒豪』

「酒豪…?まさか酔いの勢いで花弁撒いてるんじゃ…」

『ありえますね!』

「迷惑だーーーー!!!」

『あ!あかりさん!屋上から花弁が撒かれているようです!本体は屋上にいますよ!』

「屋上!?立ち入り禁止で鍵が…!」

そう言いかけたあかりの身体を里桜は持ち上げて屋上まで飛んだ

「いやああああぁぁぁ!!」

『高いところはお嫌いでしたか?あ、ちなみにあかりさん一人でも飛べます』

「そ、そうなんだ……」

屋上に着くといきなり疲れた
飛べるのは便利だが実は高い場所は得意ではないあかりだった

「あ…あれが妖怪…!?」

そこにいたのは日本酒一升片手に寛いでいる和服の美人なお姉さんだった

『そうです!彼女は攻撃的ではない代わりに気分で花弁を撒き散らす妖怪なんです!』

「やっぱり迷惑だーーー!!」

【花】の妖怪はこちらに構わずどこからともなく花弁を出し空に撒き続けている

「えーと、【花】の妖怪の回収条件は…!」

『あら、可愛いお嬢さんね。私をまた封印しにいらしたのかしら?』

どうやら妖怪も里桜と同じで普通に話せるらしい
なんだか説得すれば回収できそうな気がしないでもない

「そう!あなたの回収条件はなに!?」

『私を封印したければ……私と飲み比べで勝つことよ〜』

「酒飲めねえええええええ!!」

強気にかかったあかりだったがいきなり条件最悪の事態となった


活動開始


『おはようございます!』

「おはよう里桜…」

夢ではなかったと実感するあかり
どうやら里桜の姿は他の人に見えていないらしい

「今日は日曜日で学校休みだけど部活があるから行くね。帰ったら聞きたいこと聞いてもいい?」

『はい!お気を付けて!』

あかりは家を出た
我ながらなんて冷静なんだろう
というか我が家に住み着いているのだろうか

「おはようあかりちゃん」

「葉月。おはよう」

「元気ないね、低血圧?」

「いや違…ってそこは普通『元気ないね、どうしたの?』でしょ」

「ふふ、そうだね、低血圧なのは僕のほうだしね」

なんだかいまいち会話がおかしいのは気のせいではない
こいつはそういうやつだ

葉月は『6人組』の一人
つまり妖怪封印を手伝える人物でもある

『6人組』とは、幼稚園から現在まで付き合いのある幼馴染みグループである

中学に入ってからはそれぞれ部活や勉強が忙しくて遊ぶ機会が減ってしまった…

「葉月ちゃん…」

「はいなに?」

「次のテスト理数以外捨てるわ」

「はいはい。ちゃんと他の勉強もしないとだめですよ〜」

「火天と同じこと言うし」

昨日のことを葉月に話そうかと思ったがやめた
でもきっと近いうちに話してしまうだろう

「次はいつ6人組で遊べるかな」

面倒なことになっても6人組で遊ぶのは好きだ

次は何して遊ぼうか?そんなことを考えながらあかりは練習に励んだ






「ただいまー」

「おう、お帰り」

「お帰りあかり」

「お帰り姉さん」

「お姉ちゃんお帰りー!」

「りー!」

『お帰りなさい!』

家に帰ると仕事を終えた父と専業主婦の母と妹と弟と下の妹が迎えてくれる
そして今日は一人多い

『あかりさんは4人姉弟なんですね!みなさんそっくりで驚きました!』

「よく言われるよ」

『では妖怪封印について詳しく話をしましょう!封印というより回収ですかね。 Let's! Ghost collection!』

「え!?今英語喋った!?発音いいな!」

『外国にいた時期もありました』

「いろいろあるんだね……よし、本題に入ろう。まず妖怪はどこにいるのか?」

『あかりさんの通っている中学校含めたその近辺です!』

「範囲せまーーーー!!」

『妖怪は学区外には出ませんから〜』

「小学生か!!」

『なんだか急にツッコミになりましたね』

「ツッコまずにいられないわ!…次の質問にいこう。妖怪は何匹くらいいるのか?」

『分からないんですよ』

「え、え〜」

『でも大丈夫!妖怪達は必ず能力持ったあかりさんの元に訪れます!』

「どうして?」

『妖怪達は100年前に自分達を封じ込めた神々を怨んでいます。必ず仕返しにきます。ですから、現在同じ能力を持ったあかりさんに仕返しにくるというわけですね』

「理不尽だーーー!!」

『祠を壊したのがいけないんですよぉ』

「そうでした」

『あ、妖怪の回収の仕方を説明しますね!』

「あ、はい」

『妖怪にはそれぞれ条件があります。自分を倒すこと、謎を解くこと…様々です。その条件を満たせば妖怪は大人しく回収できるでしょう』

「手間かかりそうだなあ…100年前もいちいち条件聞いてたの?」

『神々は能力を使って力技でねじ伏せたようです』

「神様意外と乱暴!」

『その雷の能力、いざとなったらねじ伏せるために使ってください』

「え、」

『実力行使です!』

「そういうもんなの!?」

『他に聞きたいことは?』

「また何かあったら聞きます…」






大体のことは理解できた
明日から活動開始しよう
あと、やっぱ一人厳しいかも



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