冷えきったキッチンの床に座り込んで、手順通りにいかない料理に腹を立てていたら、人生すべてがそんな風に思えてきた。ここはマンションの四階。気を抜くとそんなことすら忘れてしまいそうになる。現実を認識できないのだ。いつも我に返ると誰かが私の代わりに生活を営んでくれている。誰が?誰が私の代わりに?息を吸って、吐いて、笑っているの?一人になると鏡がこわい。自分を見ることがこわい。だってそこにまったく知らない人間が映っているんだもの。誰のことも分からない。私じゃない誰かと仲良くしている誰かさんのことを私は知らない。彼も、妹も、母も、友人も、分からない。誰だろうと思っている。鏡に映る顔ですら誰だか分からない。自分なんて言われても分からない。生きてるってどういうこと?考えたくない。目覚めたくない。ここから出たくない。靄に覆われてぼんやりと曖昧なままで良い。分かりたくなんてない。私は、私、だなんて、認めたくない。来ないで。自分を認識することがとても恐ろしい。


怖い