発見された時、足の先から血が流れていた

細い血の糸が朱かい束になって血だまりを作っている

その血だまりも、端から乾こうとしていた

手の先からも同じように
 血が描かれていた

全裸だが要所要所は布切れで隠されていた


まるで、犯人の慈悲のように


まつげの長い目は閉じていた


口元は軽く開いて

歯が微かに見えた


今にも呼吸を始めそうに見えた


長かったであろう髪の毛が、無惨に束で刻まれていた
ほとんど地肌が見える


誰がこんなことをしたのか


家族でなくても憤りに駆られるようなガイシャの哀れな姿

不動産会社の管理する空き事務所に 無造作に捨てられていた死体

不動産業者は苦り切っていた
この事務所は売り物にはならないだろうから

鑑識が来て、必要十分なデータを集め

初めて被害者は身形を整えられて家族と対面する

それから必要ならば解剖が待っている

最後の縫合が終わって、家族と共に家に帰る

 通夜が待っていた

生前の美しい笑顔が参会者の涙を誘った

そこには犯人が紛れ込む可能性もあったから、油断はできなかった

見なれない若い男が通夜に来ていた

正面の遺影をおずおずと仰ぐと、焼香をして出口へ向かった

私服の刑事が後を追い、氏名、被害者との関係など聴いている
男が帰った後、刑事は首を傾げてぶつぶつ、相棒に呟いていた

続く>