5月のにーさんの日
4月の宣言通り、手紙が届いた。
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親愛なる弟、ライル・ディランディ
改めて手紙という形で書くと変な感じがする。
とりあえず先ず聞くこと。元気にしているか?こちらは最近雨ばっかりで滅入りそうだ。お前の所はどうだろう。
書きたいことは沢山あって、でもどれもどうでもいいことばかりで、手紙にしたら形が残っちまうから変な事も書けないし。難しいな。口ではどうとも言えるのに、手紙になるとこんなにも一言一言を考えてしまう。
なので一つ。お前はこの前、空でも双子は一緒に居られるっていったよな。覚えているか?あれ、実はかなり嬉しかったんだ。一緒に居たいと思っているのは俺だけじゃないって思っていいんだよな?
空の双子のように何時までもいつまでも一緒に居たいと思ってる。
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二枚目。
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ライル。何でもいい。お前は幸せになれ。いや、幸せにならなくてもいいから生きてくれ。酷いことを言っているのは理解しているつもりだ。生きて未来を。面と向かって一生言えないからここでただ一度言わせてくれ。愛している。
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手紙の封筒にも文末にも差出人の名前は無かった。支離滅裂となっているし随分余白の目立つ便箋の使い方だった。
だが、そのカラクリも面白いくらい簡単に分かってしまった。手紙の角度を変えながらその真実を暴く。
―――「それに、ニール。双子だって空にいられるんだぜ?」
あの時は何故そんな事を言ったのかわからなかったが、そうか。いつかどこかで見たプラネタリウム。星座の双子が寄り添う姿。一年の内の半年を空で、残りの半年を地下で暮らすその姿に微かな憎しみを感じたのではなかったか。
『二人がこの時期に産まれなくて良かったのかもしれないわ。そうしたら母さんは何もかもを双子という星に委ねてあなたたちを手放さず側に居続けさせたかもしれない』
幼い自分を抱きしめ母はそういった。5月の終り。それから僅かの後、寄宿舎へと旅立つ自分を見送る兄の目を、見ることは出来なかったはずだ。今まで思い出すこともしなかった記憶がふと蘇る。
視界の端に一本のバラ。読み掛けの本の代わりにこの手紙の差出人が置いていったそれは今なお枯れずに花の最盛たる満開の時を刻み続けている。そういえば、雨なんかついぞ降った事なんかないよな。窓の向こう。花咲く庭は今も光り輝いてまどろみを誘う。
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ここから書く事をお前が読んだとなると、俺はお前にどんな顔をして向き合え いのか迷ってしまうだろう。それでも書かずにはおれない。だが、 むか かはお前に委ねる。こんな卑怯な選 肢を与えて、お前が読むことも解っていてこれだ。
昔、母さんにお前が寄宿舎に行くのを何故許したのかって聞いた事がある。帰って来たのは「 人 来の為 」という言葉だった。その時は意味がわからなかったんだけどな。
もし読み進めているとして、 てい なら思い出してほしい。母さんは俺達に同じ服は買わなかったよな。何時も色も違えばデザインも違う、そんな服ばかり。それだけじゃない。ライルが料理の手伝いをするなら俺は洗濯物。一緒の事をやらせてはくれなかった。た 一つ、ライフルだけは許してくれたけど。
ライルが寄宿舎に行くと言い出したことは、母さんにとっては一つの決断だったらしい。
片道でも1時間とかからない距 ん 今考えるお笑い種なんだけど、その時の俺には正直、今生の別れのように思えたんだよ。お前が帰ってくる度に話す寄宿舎の事は俺にとって面白くもないかった。何で楽しそうに、平気で振る舞えるのかそれが俺には理解出来なかった。
双子ってのは一緒に居すぎると別れては生きられなくなるみたいだ。勿論、全てがそうとは限らないけど、少なくとも確かにその症状に俺はとても共感した。
俺がお前の事を考えるほど、お前は俺の事を考えていないのではないか。その考えばかりがあの頃の俺の中をぐるぐると回り続けて、それが堪らなく苦しかった。
だけどな。俺達が離れたことでいまこうして向かい合えと思っている。あの時二人が離れることで生き長らえるたんだ。 さ は何処までも母であったって今は思えるよ。
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2枚目の便箋に書かれていた文章。万年筆で強く刻み込むように書いてしまったのだろう。実質の3枚目たる便箋にその跡が浮かび上がる。残念だな、ニール。お前が隠し続け曝そうとしてもなお隠した気持ちを俺は暴いた。綺麗な所ばかり見せようとしてもそうはいかない。知っているか兄さん?俺もな、人の口から兄さんの事を聞くたびそいつの記憶を剥ぎ取って自分のものにしてやりたいと何度思ったことがあるか。
何時か言ってやろう。2枚目の便箋を読んだこと。俺の腹の内も。いつか。
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5月22〜6月22日頃はふたご座のターンなのでそれに便乗して。
ライルが季節はずれの転入生状態なのは気にしない。
あと参考資料に
『愛/の/妖/精(プ/チット・フ/ァデット)』(著:ジョ/ルジュ・サ/ンド、宮/崎/嶺雄訳)
しかくのさんの『ラ・プ/ティッ/ト・フ/ァデ/ット』
プラネタリウム話はいつかどこかで書いた『双子の星』(日付忘れた)もかじっています。
ゆんさんの漫画で同じ服を着ていたのも見ないフリ。