2011-7-28 19:49
「…う……」
「!真田の大将」
東の空にあった三日月が西の空へと移った頃、気を失っていた真田は目を覚ました。真田は体が動かないために、緩慢に視線だけを声がした方へとやった。
猿飛しかいないのを見て、真田は自嘲気味な笑みを浮かべた。
「……佐助……お前だけでも…無事でよか、った…」
「……すまない真田の大将」
「…黎凪は……死んだのか…?」
「…。戦闘場所に残されていた血の量だと、死んでない。多分、徳川方の捕虜になったと…」
「……そうか」
真田は猿飛の言葉を聞き、ぎり、と歯を食い縛った。猿飛もいつもの飄々とした雰囲気は消え失せ、苦い顔で地面を睨んだ。
2人の頭には、真田と猿飛・宮野が別れる前に交わした話が思い出された。
―
――
―――
『?どうした真田の大将』
『俺を置いていけ…ッ!』
『!!馬鹿野郎!大将置いて逃げる軍がどこにいるんだよッ!!』
『…しかし…ッ!!』
『……捨て奸…』
『…?すてがまり?』
『あ…いえ。…私の世界で、ある武将が大軍から撤退する時に使った手段です、が…』
『…だけど?』
『…二、三人が残りぎりぎりまで足止めするんです。その人達が死んだらまた二人、置いていく…』
『…ッそれは…っ』
『流石に捨て奸は避けたい。…先頭を走ってるのは伊達と徳川…伊達軍は幸村が伊達のライバルだと知ってるから、幸村が相手なら手出ししてこない…』
『…?』
『…佐助さん。佐助さんは他人の姿を変えることは出来ますか?』
『……出来るけど』
『…。幸村。私に残らせて』
『?!何を言いだす、のだ黎凪…ッ!』
『私が幸村に化けて足止めする。幸村ならば伊達も徳川も捨て置く事はしない』
『それなら俺様が!』
『佐助さんは一緒に残ってください。幸村だけなら佐助さんが化けたとばれます』
『そっか…。…アンタは弱くないからな…。…真田の大将、俺は黎凪ちゃんに賛成するぜ』
『無茶を…言うな…ッ』
『このままじゃ追い付かれる!騙し切る自信ならある!!だから、お願い!』
『…しかし……ッ!!』
『黎凪ちゃんは俺様が可能な限り守る!』
『……ッ…すまぬ黎凪…佐助……ッ』
―――
――
―
「…分かっておる、某の…弱さが……悪い事くらいは……」
「ッ、大将…!」
「……くそっ………」
真田は小さく毒づいて右手で顔を覆うと、ぎりと歯を食い縛った。猿飛は僅かに俯く。
「…取り敢えず真田の大将は怪我治すことに専念してくれよ。俺様は城の周りを見てくる」
「…佐助…」
「なんだい」
「…すまぬ」
「…俺様はアンタに謝られるような事はされてないぜ。謝るのは俺様の方だ」
猿飛はそう小さく返すと姿を消した。真田は視線を上に戻した。見慣れた天井から、ここは上田城である事が分かった。
真田はくしゃ、と自分の前髪を掴む。ぼんやりと視界がふやけた。
―黎凪貴方が大好きだから、やりたいようにさせてると…きっと貴方の為に犠牲になる。
谷沢の言葉が頭に木精する。
「…その通りに…なってしまったではないか…ッ!!」
つぅ、と涙が頬を伝う。真田はばっ、と拳で目元を覆った。ぎりり、と歯を食い縛る。
「う…ぅ……くそ……!」
強く拳を握りすぎて掌からぽたりと血が顔に落ちた。目元に落ちたそれは涙に混じり頬を伝う。
「……黎凪…死ぬでないぞ…ッ!」
真田はそう呟き、更に零れ出そうになる涙を耐えるために強く唇を噛んだ。