2014-3-27 21:17
それから少しして、政宗はグラウンドにやってきた。表情に特別これといった変化は見られない。
小十郎は先程見た光景を気にしながらも、それを表情には出さず、政宗のバッドを彼に渡しに行った。
「遅かったですな」
「ちょっとな。小十郎、お前今日放課後暇か?」
「?…まぁ、少しならば」
「ちょっと話がある、付き合ってくれ」
「?承知」
政宗は小十郎の返答に、にっ、と笑って返すとバットを軽く振りながら練習の輪の中に入っていった。小十郎はなぜ自分に、と思いながらも政宗の後について練習に戻った。
練習が終わり、打ち合わせも終わって各々ユニフォームから制服に着替えて帰っていく中、小十郎はのそのそと制服に着替えながらロッカー室から他の部員が帰っていなくなるのを待った。政宗もそうしていて、のそのそと着替えている。
「お先っす!」
「おぅ」
最後の一人が出ていったのを確認すると、小十郎は手早く身なりを整えて政宗を振り返った。政宗も着替え終わっていて、携帯電話をいじっていた。
小十郎は帰り支度をしながらも口を開いた。
「して、話とは」
「お前見てただろ」
「えっ、」
政宗は携帯電話から目を離さないままそう言った。気付かれていないだろうと思っていた小十郎は驚いたように政宗を見る。
政宗はしばらくカチカチと携帯電話をいじった後視線をあげた。
「俺が女子に告白されたトコ」
「……やはりその類の事でしたか」
「なんで見てたんだよ?」
「ボールを派手に飛ばした野郎がいて、それを拾いに行ったらたまたま、です。邪魔してはならぬと」
「Hum...」
「お邪魔した方がよかったですか?」
小十郎はわざとらしく笑ってそう言った。
政宗に恋人が出来るというのは何となくもやもやしたものがあるが、今の政宗は今の政宗、過去の政宗は過去の政宗であり、やはり違うのだ。恋人を作るというならば祝福する心積りはあった。
政宗はそんな小十郎の心中など知らぬまま、にやっと笑った。
「まさか。つーか、邪魔されようがされまいが断ってたし」
「!断ってしまったのですか?」
「typeじゃねぇんだもん」
政宗はそう言いながらふぅと小さくため息をつき、座っていた机から降りた。政宗が鞄を担いだので、小十郎も鞄を手に取る。
ロッカー室から出、小十郎は政宗の半歩後ろを歩いた。
「では、どのような女子が?」
「んー…どんな、つーより、昔から好きな奴がいんだよ」
「!!」
小十郎は政宗の言葉に驚いたように目を見開いた。政宗が長いこと恋恋慕していることにも告白できていないことにも驚いたのだ。
政宗は小十郎の表情に気がつくと、ぶぅ、とむくれたように頬をふくらませた。
「んだよそのFaceは!」
「へっ、あ、申し訳ありませぬ、意外で」
「悪かったな!!」
「何故思いを伝えないのです?」
「言えっかよ。それに、向こうは俺の事なんざ覚えちゃいねぇだろうしな」
政宗は拗ねたようにそう言いながら両腕をあげ、頭の後ろで組んだ。子どもっぽい仕草を見せる政宗に小十郎は思わず小さく笑う。
「貴方にも意外と可愛らしいところがありますな」
「!何が可愛いだ、テメェ!そういうおめーはいねぇのかよ、いるわけねーよなぁお前みたいなやつ」
政宗は小十郎の言葉にムッとしたようにそう言った後、ニヤニヤとしながら聞き返した。
その笑顔に少しばかりムッ、としたので、小十郎は僅かに考え込んだ。
「そうですね…カリスマ性があって」
「えっ、いんの?!」
「えぇ。それでいて仲間思いといいますか…自分の為すべきことをきちんと理解し見据えられている人ですね」
政宗は小十郎が答えると思っていなかったらしく驚き慌てたように小十郎を振り返ったが、小十郎はさして気にせず言葉を続けた。
勿論、現実にそんな女子がいるわけではない。あくまで聞かれたのは好きなタイプでしかないので、自分が愛する、過去の政宗をイメージして言っただけだった。