2013-7-8 23:07
その時、上空から勢いよく水晶玉のようなものが回りながら急降下してきて、光を帯びた輪を構成した。
それは六魔に絡み付き、その動きを止めた。信長は驚いたようにそれを振り返った。
「ぬわにィィィイ?!」
何者かの気配を察したか、信長はすぐさま前に視線を戻す。
視線の先にいるのは、吉継だ。
「ぐっ…むっ…」
吉継の腕はぷるぷると震えていたが、結んだ印を壊しまいと踏ん張っている様子が伺えた。
「賢しいわあぁぁ!」
苛立った様子の信長は吉継を見つけるやいなやショットガンを持ち上げ、三成にしたように連発して撃ち放つ。
「ぐゥゥウゥ…!」
ショットガンの弾の衝撃で、吉継の輿がふらふらと揺れる。兜に付いていた蝶の飾りが弾け飛び、包帯が裂ける。いくつかの直撃に近い衝撃を受け、吉継はふらふらと下に降ちてきた。
三成はぎょっとしたようにそちらに視線をやった。
「刑部!何をしているッ!」
言いながら三成は体を起こし、ぐ、と背を伸ばした。
「何故貴様がここにいる!さがっていろ!」
どうやら吉継はお膳立てだけで、この戦場そのものに来る予定ではなかったようだ。
三成は先程までぼろぼろだったとは思えない勢いで吉継に駆け寄る。吉継はふらふらとしながらも、六魔を止める手を止めない。
三成は抜き身の刀をひっさげ、吉継を庇うように前にたった。
「さがれ刑部!貴様はこれ以上苦しむな!」
三成は信長の銃弾を刀で受けたが、その反動で弾かれてしまった。
吉継は三成の言葉にす、と目を細める。そして、数珠を回転させながら、上空へと上がった。三成ははっ、としたように彼を見上げた。
「だあぁぁあぁあ!」
吉継は信長目掛け、<穿つな八曜>を放つ。光輝く数珠が飛んでいく。
だが。
「無駄としれェェエ!」
信長はそう怒鳴り、後ろの六魔は拘束を軽々と破った。
信長の動きに合わせて刀を振り上げ、容赦なく吉継へ降り下ろした。
「ぐぁぁあぁぁあぁっ!」
刀の放つ赤黒い光が、振り下ろされたあとも宙に漂った。直撃を食らった吉継は、弾かれる。装備や輿が、ぼろぼろと壊れていった。
「刑部ーー!」
三成は叫び、振り返りざま弾かれた吉継を追って地面を蹴った。
吉継は、かっ、と目を見開いた。声のした方に目をやれば、足の間からこちらへ手を伸ばしながら走ってくる三成の姿が目に入る。その表情には、絶望の色が浮かんでいた。
吉継は、かつて牢で見張っていた女の事を思い出した。三成が傷付くことがあるかと問えば、肯定した。
それはてっきり、太閤秀吉と半兵衛の死、「それだけ」だと思っていた。
「(…今の今まで…気付かなんだが…)」
走っている三成がなにか叫んでいる。だが、もう聞こえなかった。
「(ぬしは我を…我がぬしを思うと同じに見ておったと…いうことか…)」
ー大谷さんは…何が願いですか?
吉継は地面に叩きつけられてバウンドする。
「(この世に、これ以上不幸なものはおらぬと…ヒヒッ…ヒヒヒヒッ…)」
三成は、この世の誰よりも不幸だ。だから、自分は、三成を。
「(…滑稽なことよ…)」
心のなかで自嘲気味に笑いながらも、吉継の表情は穏やかで、充足感すら漂っている。
吉継はゆっくりと目を伏せ、首から地面へと落ちた。