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葱と牛蒡とツインテール70

次第にスピードをあげながら五人は落ちる。家康はそのなかでなんとか目を開き、一人離れて落ちているであろう三成の方を見た。
その時、その奥に、こちらに近づく大きな影があった。
「みんなーー!」
「忠勝ッ…!」
声を張り上げたのは秀秋だ。忠勝が持ち上げて飛んでいる鍋の縁に手をかけて、顔を出している。
「おーい」



 「…!日食が…終わった」
同じ頃、奥州では、避難していた場所から顔を出したしきが、そう呟いた。
日食が終わり、太陽がまた大地を照らしている。
わぁわぁと喜ぶ民を横目に、しきは西へと視線をやった。
避難する前は赤黒かった空が、今はなりをひそめている。
「…阻止された……」
しきは、ほっ、と息をついた。遅れて出てきた生嶋が、そんなしきに気が付く。しきが見ていた方を見やり、す、と目を細めた。
「…空がきれいな色になりましたね」
「…はい!」
「最後の戦…そうとはいえ、あぁも空模様が変わるとは思えませんね。何があったのです」
「……もう終わっただろうから平気ですね。石田三成は、明智光秀によって、第六天魔王信長の復活に利用されていたんです」
「はぁ?!」
常に冷静で表情の変わらなかった生嶋も流石に驚いたらしい、仰天したようにしきを見た。しきは近くの木に寄りかかるように腰を下ろす。生嶋はその隣に立った。
「石田軍の襲撃は信長復活のための謂わば贄…彼らは主を殺された憎しみにとらわれた三成を、利用したんです」
「…」
「そして、信長は復活した…赤黒い空はそのためです。でも…それが収まったということは、無事シナリオ通り、また信長は黄泉へと戻った…」
「しなりお…?」
「多分…政宗様も小十郎様も、ご無事です」
「…それは、何よりです」
生嶋は極めて静かにそう言った。落ち着きを払っている生嶋の様子に、しきは苦笑する。
「すみません、情けないとこばっかり見せてしまって」
「全くです、片倉様の奥方になられたからにはもっと…」
「すーみーまーせーんー!」
わーわーと謝るしきに、生嶋は半ば呆れたように笑う。そして、ぱっぱと裾もとの土を払い、懐から出した紐で手早く袖を結んだ。
「さぁ!戻りますよ、しき。そちらの戦が終わったというならば、戻られる政宗様達を迎える支度をしなければ。ぐずぐずしている暇はありませんよ!」
「ふふ、はいっ!」
しきはどこか意気揚々と城へと向かう生嶋に、生嶋も安心したのだろう、小さく笑いながらも、無事に戦が終わったということに安堵し、久しぶりに心の奥底から笑った。

小十郎様、早く貴方様に会いたいーー

しきはそう思いながらも、妻としての役目を果たすべく、生嶋のあとを追った。

葱と牛蒡とツインテール69

「三、成…!」
倒れていた家康は辛うじて片目を開けて、苦しげに呟く。
「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ」
しばし間があってから、再び信長が乾いた声で笑い、三成を見下す。
「癪にも触れぬわァァ…!!」
だが、信長がそう言い放った直後、突然ブシュッ、と傷口が開き、血ではなく黒い瘴気が吹き出す。その勢いに押されてか、がくっ、と信長の頭が傾いだ。
「どぅおッ…?ずぼぁああらぅあぁああアアッ!!」
信長は銃を落とし、手で傷口を押さえるも、吹き出す勢いは止まらない。
「…!」
立ち上がる力すらも使いきった三成は、半ば呆然としながら、倒れた場所からそれを見ることしかできない。
「うぬぅ……ぅぅ……ずばぼあぉおぁ〜ッ!!」
信長は咆哮するように叫ぶ。吹き出した瘴気は消えずに、黒い靄となって信長のまわりにまとまっていく。
その時、ざり、と、地面を擦る足音がした。
「!?」
信長は驚愕したようにそちらを見る。信長の向かいに、ゆらりと立っているのは、市だった。
「にいさま…」
信長の様子とその声に、幸村たちも市の存在に気がつく。特に、幸村はぎょっとしたようにそちらを見やった。
「お市…」
「殿…」
途中で途切れた幸村の台詞を引き継ぐかのように、ショックを受けた表情の家康は呆然と呟く。
「…」
「魔王の…妹…」
慶次は予想外の事態に息をのみ、政宗は驚きに僅かに目を見開いた。
市は、ふ、と薄く笑みを浮かべ、信長を見た。
「市と、ねむろう…」
市はそう言うと、止めていた足を踏み出し、瘴気の中へと入っていった。その体は淡く、翠の色に光っているようにも見えた。
信長はどこか混乱しているように市を見る。
「化楽ゥ…?!うつけがぁ…。!」
信長はそう怒鳴るように叫ぶが、市は臆することなく、するっ、と信長を抱き止めた。信長ははっとしたように市を見る。
ふわり、と市の髪が揺れた。
「市が…ずっとそばにいてあげる…」
市は笑みを浮かべたまま、優しい声色でそう言った。直後、ずる、と足元が歪み、暗い地の底へと二人は沈み始めた。
「ぶわぉあるおお〜ッ!!ずぼはぁぁっ〜ッ!!」
バキバキと音をたてて二人のまわりの地面も崩壊し始める。ずず、と沈んでいく信長は市の腕の中でもがくが、市の放つ光が浄化しているのか、白い煙すらあげて呻いている。
「ぬぐぅぅああ〜ッ!!うぉおおぁあ〜ッ!!むふぐぅぅほぉ…あぁ…!!」
悲鳴のような声をあげ、沈んでいく間もがき続けた信長だったが、浄化の白煙の中、その表情は次第に恍惚としたものへと変わっていく。
「こ…心地…ヨキ、腕…」
脱力したようにそう呟いたとき、真っ赤に染まっていた信長の目に瞳が戻り、ゆっくりと眠るように信長は細めていく。
「是非、モー…」
なしーー。
そうは言いきらぬ内に、信長は市と共に沈んだ。直後、棘が地盤を無くしたかのように勢いよく崩壊する。
「あ〜」
「うおおおおお」
びしびしと亀裂が入り、倒れていた五人も勢いよく宙へと放り出され、落下した。

葱と牛蒡とツインテール68

「今しかねぇ…!あとは頼むぜ、小十郎…!」
政宗はそう言いながら、赤く光るフィールドに足を踏み入れる。
「お館様、お許し下され!この幸村、天下の捨て石と相成り申す…!」
「利、まつ姉ちゃん、いつまでも仲良くな…!」
「ワシなき後、皆が絆を結んでくれることを信じて…!」
三人も同じように言葉を紡ぐ。四人は、命を捨てる覚悟をしていた。
四人の足並みが揃い、歩いていたのが走りに変わる。
「ぬああぁあぁッ…!」
信長は蹲っていた体を振り上げ、咆哮する。それと同時に、信長を覆っていた結界が破られ、光の欠片が粉々に舞い散る。
消えかけていた六魔が、勢いよく再び姿を現した。
「てやああっ!」
幸村が勢いよく地面を蹴った。
「風林火陰、山雷水ッ!」
「淡く微笑め、東の照ッ…!」
「掴めや抱け、乱れ髪ッ…!」
三人が各々の渾身の技を放つ。
「ぐぬぬぬぅぅぅぉおぉぁあぁ!!!」
命をもかけたその技に、結界を破ったばかりであるとはいえ、さすがの信長も受け止めきれずにバランスを崩す。六魔も攻撃で起こった爆風で姿が揺らめく。
「うりゃああああッ!」
爆風の中、上空からがら空きの信長の元へ政宗が飛び込む。
政宗は空中で刀を構えた。上段に刀をーいつも通りの構えで、刀を握りしめる。
「It's one-eyes dragonッ!」
刀が大上段に移り、勢いよく刀を振り下ろすと同時に技を放った。
棘の頂上、爆光の中に一筋の雷が落ちて、一度消えてから凄まじい四色の爆光が噴き上がった。
「ずむぅおあああぁあぐぅおぁうッ!」
信長の断絶魔が響く。爆光の中六魔は激しく歪み、黒い靄となって散りさった。
信長は脱力し、背中からずどん、と倒れた。
地に僅かに亀裂が入る。
「…やったか…?!」
政宗は静かに呟く。
だが
「余は…滅せぬゥゥ…!」
がしゃん、と音をたて、足を曲げた信長の足の裏が地面につく。
「既に、滅するが、故にィィッ…!」
ぐぐぐ、と腕を使わず、そのまま体を起こして立ち上がる。若干苦しげではあるが、倒すほどのダメージにはなっていないらしい。
政宗と幸村は呆然とそれを見つめた。
「天魔ァァ即ち五十年ンッ!!」
信長はそう叫ぶと、ガンッと刀を地面に突き立てた。カッ、と光り、その光が一瞬で拡がって政宗、幸村、慶次、家康をはね飛ばす。
「うわぁぁっ!」
四人は抵抗もできずに飛ばされた。
ちかちかと光が明滅している。そこに、フラり、と揺れる影が1つ。
三成だ。
「秀吉、様ー」
ふらふらと三成は歩き、近くに刺さっていた自分の刀の前に立った。
「…ここに朽ち果てる、無様にー」
刀の柄を歯でくわえ、そのまま豪快に上体を振って刀を引き抜いた。もう腕に力は残っていなかった。
「何とぞッ…!ご許可をッ…!」
三成は勢いよく地面を蹴る。政宗たちが倒れている間を駆け抜けていく。
信長は走ってくる三成に気がつき、素早く銃を構えて発砲した。
ショットガンの嵐の中を突っ込んで行く三成。ギリギリの所まで駆け、最後に勢いよく地面をけって信長の頭上に向けて飛び上がる。
「刃に咎を、鞘に購いをッ!!」
爆風の中、三成は頭から信長に飛び込み、首目掛けて斬り抜いた。
ぐっ、と足を前に向けて着地するが、勢いを殺せず、刀を口から落とし、顔面から地面へと勢いよく転がった。

葱と牛蒡とツインテール67

「刑部ーーー!」
三成はそう叫びながら、ワンテンポ遅れて吉継の元へ駆け寄り、傍らにしゃがみこむと、がしり、とその肩を掴んだ。
「刑部ッ貴様が死ぬことは許さないッ!刑部ゥゥゥウ!」
そう怒鳴っても、吉継の身体はピクリともしない。三成は顔を歪め、亡骸の半身を抱き上げるとそのまま抱き締め、突っ伏した。
「…ッ」
政宗は三成の様子に顔を歪める。
誰も二人の姿を直視できなかった。信長は一人、高笑いをあげている。
家康は、ぐ、と拳を握った。
「三成!信長をよく見ろ…!」
ぼたぼた、と吉継の亡骸に赤いものが溢れ、包帯に滲む。それは三成が流す、血の涙だった。
三成は家康の言葉に、俯いていた頭をぴくり、と動かす。
「豊臣の時代ー民の目に、秀吉公が…ワシらがどう映っていたのかを!」
家康はそう言うと視線を信長へと向けた。三成も、流れた涙をぬぐおうとしないまま、そちらを振り返った。
そこにいるのは最早人ではなくなったかつての武将。第六天魔王と称される彼の姿は、絶望しか与えなかった。
三成はショックを受けたように目を見開く。
「そんな…はずは…!」
三成はぶんぶんと頭を振った。家康はそんな三成を静かに見つめる。
「…テメェ、ちゃっかり止め刺しにいったな」
「え、えっ?」
「……なんでもねぇよ」
小十郎はぼそりとそう呟き、視線を信長へと戻した。政宗は小十郎になにも言わず、目を細めた。
「は、は、は、は、は、は」
信長は高らかに笑い声をあげている。
だが、その時。
信長の足元に、砕け散らばっていた吉継の数珠が、淡い光を放ちーー円状に信長を囲うように発光した。
「おうぅ?」
信長へと流れ込んでいた赤黒い光が途絶える。ぐらり、と六魔の姿が歪み、信長も上体を崩した。
「うおううううっ…!」
「…?」
信長の様子のおかしさに、慶次は後方を振り返り、幸村はそんな慶次に視線をやった。
「…!あれは…魔王さんの根っ子か…!?」
後方を振り返った慶次は、自分達がいる棘の根本部分に、黒い帯状のものがなにかを吸いとっている事に気がついた。
慶次の言葉に幸村もそちらを見やる。
「あの無数の黒い手が魔王の根となっておると?!」
二人の言葉に同じように背後を見ていた家康ははっとした様子を見せた。
「魔王はまだ復活を遂げきっていない。今のうちにあれを断てばー」
家康の言葉に、政宗はぐ、と刀を握って顎を引いた。政宗の様子に、小十郎もいずまいを直す。

今、この場で魔王を倒さねば、日ノ本の未来はない。

「小十郎…!」
「ー心得ました。ご武運を…!」
小十郎は政宗の呼び掛けにそう答えると、背後に目をやり、地面をけってそちらへ跳んだ。
「佐助!武田一軍、お前に預ける!」
「了解だけど…副将って、手当てつくのかい?」
同じように自分の配下に幸村はそう声をかける。佐助はどこかおどけたようにそう答え、小十郎同様にその場から離れた。
政宗は傷む体を引きずり起こし、信長の元へと足を進めた。
幸村、家康、慶次もそれに続いた。

葱と牛蒡とツインテール66

その時、上空から勢いよく水晶玉のようなものが回りながら急降下してきて、光を帯びた輪を構成した。
それは六魔に絡み付き、その動きを止めた。信長は驚いたようにそれを振り返った。
「ぬわにィィィイ?!」
何者かの気配を察したか、信長はすぐさま前に視線を戻す。
視線の先にいるのは、吉継だ。
「ぐっ…むっ…」
吉継の腕はぷるぷると震えていたが、結んだ印を壊しまいと踏ん張っている様子が伺えた。
「賢しいわあぁぁ!」
苛立った様子の信長は吉継を見つけるやいなやショットガンを持ち上げ、三成にしたように連発して撃ち放つ。
「ぐゥゥウゥ…!」
ショットガンの弾の衝撃で、吉継の輿がふらふらと揺れる。兜に付いていた蝶の飾りが弾け飛び、包帯が裂ける。いくつかの直撃に近い衝撃を受け、吉継はふらふらと下に降ちてきた。
三成はぎょっとしたようにそちらに視線をやった。
「刑部!何をしているッ!」
言いながら三成は体を起こし、ぐ、と背を伸ばした。
「何故貴様がここにいる!さがっていろ!」
どうやら吉継はお膳立てだけで、この戦場そのものに来る予定ではなかったようだ。
三成は先程までぼろぼろだったとは思えない勢いで吉継に駆け寄る。吉継はふらふらとしながらも、六魔を止める手を止めない。
三成は抜き身の刀をひっさげ、吉継を庇うように前にたった。
「さがれ刑部!貴様はこれ以上苦しむな!」
三成は信長の銃弾を刀で受けたが、その反動で弾かれてしまった。
吉継は三成の言葉にす、と目を細める。そして、数珠を回転させながら、上空へと上がった。三成ははっ、としたように彼を見上げた。
「だあぁぁあぁあ!」
吉継は信長目掛け、<穿つな八曜>を放つ。光輝く数珠が飛んでいく。
だが。
「無駄としれェェエ!」
信長はそう怒鳴り、後ろの六魔は拘束を軽々と破った。
信長の動きに合わせて刀を振り上げ、容赦なく吉継へ降り下ろした。
「ぐぁぁあぁぁあぁっ!」
刀の放つ赤黒い光が、振り下ろされたあとも宙に漂った。直撃を食らった吉継は、弾かれる。装備や輿が、ぼろぼろと壊れていった。
「刑部ーー!」
三成は叫び、振り返りざま弾かれた吉継を追って地面を蹴った。
吉継は、かっ、と目を見開いた。声のした方に目をやれば、足の間からこちらへ手を伸ばしながら走ってくる三成の姿が目に入る。その表情には、絶望の色が浮かんでいた。
吉継は、かつて牢で見張っていた女の事を思い出した。三成が傷付くことがあるかと問えば、肯定した。
それはてっきり、太閤秀吉と半兵衛の死、「それだけ」だと思っていた。
「(…今の今まで…気付かなんだが…)」
走っている三成がなにか叫んでいる。だが、もう聞こえなかった。
「(ぬしは我を…我がぬしを思うと同じに見ておったと…いうことか…)」

ー大谷さんは…何が願いですか?

吉継は地面に叩きつけられてバウンドする。
「(この世に、これ以上不幸なものはおらぬと…ヒヒッ…ヒヒヒヒッ…)」

三成は、この世の誰よりも不幸だ。だから、自分は、三成を。

「(…滑稽なことよ…)」
心のなかで自嘲気味に笑いながらも、吉継の表情は穏やかで、充足感すら漂っている。
吉継はゆっくりと目を伏せ、首から地面へと落ちた。
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