前々日譚「オモテとウラ」からさらに2ヶ月ほど経った頃。

一般市民の恭平は近頃SNSで話題になっている通称「闇の執行人」がどうも気になっていた。
最近上がった動画では黒い制服らしき服を纏い、怪人を容赦なく倒している。

それはまるで死神のよう。



通称・闇の執行人とはゼノク特殊請負人の泉憐鶴(れんかく)のこと。

彼女は顔から首にかけて包帯で覆われているため、何者なのかコメント欄やネット掲示板では推理合戦が加熱している。
声でも特定出来ないようにボイスチェンジャーを使っているあたり、相当手練れてるというか…。


初めはあの2回会った「仮面の司令補佐」・紀柳院司令補佐だと思ったが、あの人はあんなにも激しい動きは出来ない。
彼女は言っていた。「戦えない身体になった」と。

じゃあ、この黒衣の執行人は一体どこのどいつで何で怪人の人間態ばかり殲滅・攻撃をしてるんだ…?
攻撃の度合いが容赦ないあたり、非情。
顔が包帯で隠れていることからして、女性ということしかわからない。



元ネットニュースサイト記者の鷲尾もこの女が気になっていた。
ネット上ではダークヒーローと讃えられている、裏で悪事を働く怪人…それもほとんど人間態ばかりをターゲットにしている女が。

鷲尾は女の出で立ちが引っ掛かっていた。なぜ包帯姿なんだ?
人前では素顔になれない事情がありそうにも見えるが。いくら彼女を調べても出てこない、謎の執行人になっている。


あの黒い服、目立たないがロゴらしきものが見えた…ゼルフェノアとは違う組織の人間なんだろうか…。ますます謎が深まる。



本部。宇崎は鼎にこんなことを言っていた。


「晴斗のやつ、そろそろ高3になるだろ。学校優先にしたいってさ」
「卒業してからゼルフェノアに入りたいわけか…」

「あいつは既に隊員だろうが。まだ一時隊員だけどね。去年の件で俺達が戦闘に巻き込んだせいで、勉強遅れてるってよ。
だからしばらくの間は晴斗と会うのはお預け…みたいな?でも緊急時には呼ぶぞーい」

「組織は回っているし、今の状況知ったら…あいつは驚くだろうな」
鼎はふふっと笑ったような反応をした。1年前は笑うことなんてなかったのに。


「晴斗は今、春休みだからちょいちょい本部に来るってよ」
「そんな時期だったか」



暁家。晴斗もその近頃話題になっている「闇の執行人」がどうも引っ掛かっていた。
怪人の人間態ばかり殲滅する謎の包帯女。正体不明だが、ターゲットは怪人なのは明白で。


「なんでこんなに持て囃されてんだろ…この人」
晴斗はスマホを見ながらボソッと呟いた。そこに父親の陽一が。

「父さんはこの人、ゼルフェノアの人間にしか見えないけどな〜。
ゼノクの人かもな〜。あくまでも推測だよ、真に受けちゃダメ。北川が気になることを言ってたんだよ、『ゼノクには裏の人間がなんたらー』って」


裏の人間?父さんドラマの観すぎだって。
晴斗はまだこの時、半信半疑だった。



恭平も彼女を調べてみるが全然情報が出てこない。とにかく謎、謎すぎる。


ターゲットになった怪人人間態を調べた方が早かった。結婚詐欺師に医療ミスを隠蔽する医者など、出るわ出るわ悪事が。
人間態ゆえにゼルフェノアは気づけなかったのか?

ゼルフェノアが取りこぼした、怪人を彼女が代わりにやっつけてる?



ゼノク。西澤はあの隠し通路を再び調べてみることに。リスクはあるが、やはりあの女…泉憐鶴がなんであんな場所にいるのか。
彼女の世話役の姫島はゼノク医療チームの1人。

この「泉憐鶴」についてもっと調べたら、ゼノク医療チームについても多少なりともわかるかも…。



本部でもゼノクには裏があると読んでいた。ゼノクでは西澤室長がリスクを承知で、密かに真相を突き止めようとしている。
…なら、支部の小田原司令はどうなのか?


宇崎と小田原の通話。


「ゼノクの裏の人間?俺は知らないぞ」
「小田原司令、そうですか…」

「近頃SNSで話題になっている怪人だけをターゲットにする、『闇の執行人』はご存知ですよね」
「それは知っている。あの包帯女のことだろう?レンカクだっけ」
「そう、そいつです。本部では偶然、鼎といちかが目撃した以外は誰も見てないから不鮮明で…。
いちかは彼女の素顔の一部を見てからショックなのか、メンタルやられてしまいまして」

「今現在の時任は?」
「そこそこ元気になりましたよ。彼女については一切話さないですが」


話さない?


「ゼノクは謎が多いから、西澤と本部・支部で謎を探るしかないですかね〜」
「宇崎、これは遊びじゃないぞ。怪人の残党はまだいるんだからな」

「小田原司令、ゼノクの狭山と二階堂なら何かしら知ってそうですが」
「それはないだろうよ」



これは組織の表の人間・紀柳院司令補佐と裏の人間・「闇の執行人」泉憐鶴の話である。

そこそこ平和にはなったものの、新たな脅威が迫っていた。