鼎がイーディスら2人に拉致された事件から数日後。
本部の警備は強化されていた。
家感覚で来た錦裏は、本部の警備が強化されていたことが気になった。この日は柚希も一緒。
「先輩と柚希、よく来れるよなー。こんな状況で」
御堂は呟く。
「あれ?紀柳院さんは?」
柚希はキョロキョロしてる。
「数日前のゴタゴタで、ちょっと精神的に不安定になっちまってな…。姿を見かけてもそっとしておいてくれ。お願いだ」
「何があったかわからないが、わかったよ。警備が強化されてるあたり、何かに彼女は巻き込まれてなんだかんだ解決したってことかな…」
「解決なんてしてないですよ。…ってか、先輩と柚希は何しに来たんですか…」
「撮影とインタビューだよ。予定では今日、司令補佐にインタビューする予定だったんだが見送りだな。
こんな状況じゃあしばらく本部で撮影も難しそうだ。今日は撮るけどね」
「なんで本部にこだわるんだよ。別な場所、いくらでもあるだろうが」
「あの雑誌はゼノク公認って言っただろ。=ゼルフェノア公認だから取材協力として、モデルの撮影場所に組織の施設のどこかを使わないとならんわけ。
そういう制約があるわけよ」
「先輩も大変なんだな…」
某所のとあるアジト。…の地下研究所。あの廃ビルとは違う場所。
「グレア〜、例の怪人完成したの〜?」
イーディスはDr.グレアに馴れ馴れしく聞いてる。地下研究所はかなり怪しい雰囲気。
マッドサイエンティストのDr.グレアは白衣を翻した。右腕に何かを装着している。
「機械生命体のプロトタイプ、完成したよ…」
グレアは不敵な笑みを浮かべる。
「プロトタイプ出来たんだ〜」
イーディスは楽しそう。
「実用化までまだ少しかかるが、プロトタイプでも実戦可能だからね。私の自信作だ!!ハハハ!!」
グレアは高笑い。いかにもマッドサイエンティストらしい。
「実用化したらゼルフェノアは終わりよ♪
私は彼女の弱みを握っているわけだし?司令補佐を失墜させようと思ったけど、ここはベタに怪人ぶつけた方がいいわよね」
「紀柳院鼎の正体について探ってる一般市民は一定数いるから、そいつらに任せておけばいいだろう。
…ま、いつかは暴かれるとは思うね。紀柳院鼎の正体は。『仮面の司令補佐』の仮面を失ったらあいつは終わりだ」
「グレアもゼルフェノア潰しに加わるよね?」
「そりゃあ、もう。喜んで」
地下研究所と機械生命体。
彼らは鼎とゼルフェノアをじわじわと潰そうとしている。
イーディスはかつて鼎の復讐代行の同業者。鼎の仮面の理由も、なぜ身体に負荷がかかりやすいか、なぜ戦えないか、彼女の弱点も知っていた。
「またあいつを閉じ込めるぅ?鼎は暗くて閉ざされた空間がダメなのよね。閉鎖空間が苦手なのよ。
あいつ…またパニクるんじゃないの?」
「電車に乗れないとは薄々聞いてたが、何かしらトラウマがあるのかもな…。で、わざわざ傷を抉るのかい」
「手段は問わないわよ。機械生命体が完成形になったら投入するよ…。わかっているよね、グレア」
「怖いわ、あんた…」
本部では雅も柚希に合流した。
「はえー、予定変えたからって雅さん呼んだのか」
御堂は本部に入ってきた、ゼノクスーツ姿の女性を見ながら錦裏に聞く。
「こういうことはよくあるよ。雅、ごめんね」
「今日は予定ありませんでしたから」
「素朴な疑問なんだけどよ…。こんだけセキュリティ強化してんのに、なんでゼノクスーツ姿の雅さんはあっさりと本部に入れたんだ?
そののっぺらマスク、顔全体覆ってるから判別難しくない?」
御堂の疑問に雅が答えた。
「ゼノクスーツ着用者向けのパスがあるんですよ。スーツは体や顔全体を覆ってる関係で顔認証も指紋認証も出来ないので、これを使うんです。パスはカードキーみたいなものですね。スキャンするんです。
ゼノクスーツ越しでも顔認証出来る機械もあるところにはありますよ。ゼノクはありますし」
本部・救護所。鼎は彩音とずっと話をしていた。
「鼎相当傷ついてるね…。動く気力、ないんでしょう?寝ていたら」
「…うん。まだ引き摺ってる……」
「それにしてもそいつら、新たな敵になりそうな予感がするのよね。明らかに鼎を利用しようとしていたし、危ないよ」
「………イーディスは…私の弱点を知っている。
だからあの時、私を閉じ込めたんだろう。閉所恐怖症だとわからなければ、あんな場所にわざわざ閉じ込めない…」
鼎の声が震えている。相当怖かったんだろう。
しかし、なぜ鼎の傷を抉るようなことをするんだ?
「あの2人は怪人じゃない、人間だ。あのマッドサイエンティスト…嫌な予感しかしない…。何かを作っていそうで」
柚希と雅は順調に撮影を受けていた。
「はい、お疲れ様でした〜。柚希はそのまま帰るの?ゼノクスーツ姿で」
錦裏が聞く。
「雅さんがせっかく来たので…。一緒に帰りますよ。このままの姿で。服は着替えますが」
御堂は感じた。
柚希のやつ、ビジネスゼノクスーツモデルだが慣れすぎだろ…。
よくあんな、のっぺらマスクの見た目があれなスーツを着れるよな…。
錦裏から聞いたが、雑誌で防火防水仕様のゼノクスーツ着用でキャンプをする企画も検討してるとか。
防火防水仕様のゼノクスーツって、あるんだ…。じゃないとアクティビティなんて無理だろ。スーツカタログを見せてもらったが、スポーツ用や夏用まであるなんて知らなかった。
スポーツ用のゼノクスーツはランニングしている人が着てるのをたまに見かけるから、なんとなく知ってた。デザインやカラーリングがスタイリッシュなのがスポーツ用らしい。
スポーツ用はスポーツ中継でたまに選手が着ているのを見る。陸上ではかなり浸透してるっぽい。球技は向いてないとか。
水泳用もあるとか聞いたな。あれで溺れないのが不思議だ。スーツがどういう仕組みなのか、謎すぎるが…。
鼎は安心したのか、救護所で少し眠ることにした。
「最近色々あったから休んだ方がいいよ…。明らかに疲れてる。顔が見えなくてもわかるんだ。
鼎は休んだ方がいいよ…」
「…彩音、まだいて欲しい。少し寝るから…」
「仮面、外さなくていいの?」
「仮眠だから外す必要はない」
「もっとリラックスすればいいのに…」
鼎からしたら眠る時に仮面を着けたままはよくあることだ。仮眠の時は着けたまま。
家で眠る時はさすがに仮面は外すが、摩擦で顔の大火傷の跡が擦れるのが嫌なので、ゼノクスーツのマスク部分だけのような顔全体を覆うのっぺらマスクを着けてから寝ている。
端から見たらのっぺりしてるためにホラーだが。
鼎の部屋には対怪人用ブレード・鷹稜(たかかど)人間態がいるため、ある意味セキュリティは強化されている。
「とにかく寝ていいよ…ってもう寝てる。疲れが溜まっているのかな…。かなりお疲れみたい…」
鼎が早く寝つくのは珍しい。仮面越しだが寝息は聞こえていた。
救護所に宇崎が入ってきた。
「鼎は?」
彩音は「しーっ」というジェスチャーをする。
「今眠っていますよ。彼女、相当疲れているみたいだし精神的にもかなり疲れているのかも…。あの事件で傷を抉られたみたいで…。しばらく私はここにいます。
鼎から『しばらくいて欲しい』って言われたので」
「彩音、鼎のことは任せるよ。彩音と和希がいないとあいつは壊れそうだ…」
「室長、晴斗くんも鼎には必要ですよ。『悠真姉ちゃん』を知る数少ない人だから」
「しばらく鼎を休ませてあげて。長官から命が出たからな。敵の動向がわからない以上、こっちも下手に動けないだろ?
とにかく鼎は最低1週間、最長1ヶ月は休ませる。あいつの精神状態が心配だ…」
「私はたまに行けばいいですか?鼎のところに。カウンセリングは必要だよ」
「彩音は元カウンセラーだもんな。頼む。鼎から話し相手になって欲しい時も行ってあげて」
某所・地下研究室。
「機械生命体を生み出すなんて、グレア様最高ですわ〜」
イーディスは喜んでいる。
「『様』は余計だ。私はやりたいことをしているだけに過ぎないよ。
ゼルフェノア潰しとなると、蔦沼が邪魔になるな…」
「蔦沼?」
「ゼルフェノア長官にして、研究者だよ。
通称『義手の長官』だ。彼は様々なものを開発してはゼルフェノアに提供している。厄介な科学者長官だ」
「この戦い、科学者vs科学者の代理戦争になるわけね♪ふふふ…楽しみ〜」
「君からしたら紀柳院を潰す戦いになるかもな」
「あんな満身創痍な女、すぐにでも倒すわよ。火傷のダメージであいつはぼろぼろなんだから。
それにしても戦えないのになんで司令補佐になってるのかしらねぇ〜」
「指揮系統はほとんど戦場に出ないからじゃないのか?」
「だったら引き摺り出してあげる」
今度こそseason3へ続く?