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王立学校とスクール生


王立学校
4年制で1,2年が基礎課程、3、4年が専門課程(騎士団や騎兵隊と両立できる期間)
専門課程の成績優秀者は基礎課程生を数人補佐に付けることが許されているが、その場合基礎課程の生徒もある程度の成績を収めていないと行けない。
学校側に申請してそれが通れば補佐として色々頼める。

リクの補佐はロゼットとクレイハウンド
シアンの補佐はフィオル

ホワイトクリスマス




「取り急ぎ報告しておくことはそれだけですね、この時期は積雪もありますし魔物も比較的少なくなりますね」
国境周辺の偵察報告を聞きながら、レイリはあらためて休みのないこの仕事にため息をついた。
「せめて今年入った子達にだけでも休みをあげたかったけど…」
「なかなか全員…と言うわけには行きませんしね。
騎兵隊に入隊した以上は全員がそれは理解していると思います。」
「そうだね。」
レシュオムが困ったように笑みを浮かべるので、レイリはそれ以上は何も言わなかった。
今日はクリスマスイヴ。
街はそれぞれが飾りつけをして賑わっている。
「レシュオム、君も今日くらいは早く上がりなよ。
あとのことは自分でできるから。」
休みをとらせてやれなかったレイリなりの気遣いだとすぐに気付いたレシュオムは、それでも上の者が定時まで居ないと下の者に示しがつきませんからと言ってお茶のカップを下げた。
どこまでも他人優先なレシュオムの決意に、成る程彼女らしいとレイリは深く椅子にもたれ掛かった。
外は夕暮れでぱらぱらと雪が降っている。
街では子供達がはしゃぎまわり、大人はプレゼントを沢山抱えているのだろう。
そんなクリスマスですら、騎兵隊や騎士団に休む暇などないのは事実で、今日も国内の各門には隊員が魔物からの襲撃に備え待機、監視している。
彼らのお陰で城下町は大変な賑わいを見せている。
騎兵隊に入隊した時点で特別な日に大切な人と過ごせないことは各々が承知の上だが、命の危険が伴う仕事ゆえに、せめて新人位は休みをとらせてやりたかったのがレイリの本音で、もちろんそれはレシュオムやゼクスにも反対され、最終的にシュノがレイリを一喝して無かったことにされてしまった。
「魔物なんて…こんな日に来ないのに…」
窓からぼんやりと街灯がつき始めた街を眺める。
自分にも大切な恋人がいるわけだが、それなりの地位にいる隊長と副隊長が同時に居ないと言うことは、こういった日に限ってはありえない。
レイリは隊舎にて待機し、シュノは街の巡回に当たっていた。
「…シュノ…」
「呼んだか?」
恋しくなって不意に呼んだ本人が、コートの雪を払いながら執務室のドアを開けた。
「お帰り、寒かったでしょ」
ふわりと柔らかな笑みを浮かべて、シュノの冷えた身体に抱き付いた。
「ただいま、流石に外は冷えるな…」
ぎゅっとレイリを抱き締めて冷えた身体を暖める。
ひんやりした手がレイリの頬に添えられ、そのまま柔らかな唇をそっと重ね合わせる。
「ん、ぅ…」
抵抗する様子もなく、レイリはシュノの首の後ろに腕を回して引き寄せた。
そのまま背後の窓に背中を預けてキスを交わしながら、シュノはレイリのシャツのボタンを二つはずし、首筋にキスマークを色濃く残した。
「ん、や…あと、残したらダメって…」
「イイだろ、どうせ見えねぇよ。」
「ふぁ、シュノ…」
リボンタイを解き、露になった白い首元にキスマークがくっきりとついているのが酷く背徳的な魅力を感じさせる。
「今日は側に居てやれねぇから、虫除け」
「シュノにも…つけさせて」
レイリがそっと踵を上げてシュノの首筋にキスマークを付けた。
レイリと違い首元を露出するシュノはキスマークが丸見えだが、気にする様子はない。
「少し仮眠したらまた巡回に戻るから…」
そういって火の近くのソファーに横になった。
「うん」
シュノの身体に毛布をかけて、レイリは執務机に座って書類の処理を始めた。
「……レイリ」
「うん?」
「………」
シュノは黙ったってレイリ一人が座れるスペースをあけた。
レイリはなにも言わずにそこに座ると、シュノが頭をのせてきた。
「寒くない?」
「ああ」
特別、何かを話す訳じゃない。
眠るシュノの頭を撫でながら、そのまま心地よい温もりにレイリも目を閉じた。



「隊長…隊長!!」
自分を呼ぶ声に意識がぼんやりと覚醒する。
「あ、レシュオム…?」
申し訳なさそうな顔でレシュオムがレイリの顔を覗き込んだ。
「すいません、お疲れみたいだったのでそのままにしておこうと思ったんですが、首が痛くなるかと思って…」
「いや、ありがとう
確かに首が痛いかも…」
苦笑いしてレイリが身体を伸ばした。
すると、身体に毛布がかかっているのに気付いた。
「レシュオムがかけてくれたの?」
「いえ…私が来たときにはもう…」
「じゃあシュノかな…」
毛布を綺麗にたたみ、立ち上がる。
「シュノさん、戻ってらしたんですか?」
「うん、仮眠取ったらすぐ戻るっていってたからもう戻ったのかもね…」
寂しそうなレイリに、レシュオムは暖かな紅茶を差し出した。
「でも、そろそろお休みになってもいいんじゃないですか?」
「…シュノが帰ってきたら、そうする。
レシュオムももう休んでイイよ」
「はい、そうさせていただきます。」
かなり寝てしまっていたのか、大分時間がたっていた。
「うん、おやすみ。
良いクリスマスを」
「はい、隊長も…」
レシュオムの後ろ姿を見送りながら暖かな紅茶に口をつける。
「シュノ…まだかなぁ…」
必要な書類はを処理しながら、ため息をつく。
「さむい…シュノ…」
身体を抱きながら、畳んだ毛布を肩から羽織らせる。
いとしい恋人の帰りを待ちながらレイリは書類を片して窓の外を眺めていた。
「レイリ、戻った。」
「シュノ!!」
待ちわびた声にレイリは嬉しそうに駆け寄った。
「さすがにもう夜も更けたし見張りだけで大丈夫だろ、明日に備えて俺達も休もう」
「うん…」
レイリが毛布を片してコートを羽織ると嬉しそうに手を繋いだ。
街灯がほんのり灯る街を歩いていく。
宿舎にあるレイリの部屋に着くと、暖炉に火をつける。
ぱちぱちと燃える炎が冷えた身体を暖める。
暖炉の前で二人は寄り添いながら毛布に包まりながらレイリが甘えるようにもたれ掛かってきた。
「どうした?」
「ん、今日はイヴだし…」
頬を赤く染めながら上目遣いでシュノを見上げる。
そのまま、毛布の上にレイリの身体を押し倒すとリボンタイを解きながらキスを落とす。
「シュノ…して」
「ああ」
二人の影がひとつになり、愛すること愛されることをお互いに感じた二人はそのまま解け合うように交じりあった。



「そういえば、プリン買ってきたんだった」
情事後の心地よい気だるさにまどろんでいると、唐突にシュノが小さな箱を差し出した。
それはレイリのお気に入りの菓子店のもので、中にはプリンがひとつ入っていた。
「ケーキは売り切れだったんだ」
「ううん、ありがとう
僕の好きな店、覚えててくれたんだ」
レイリは嬉しそうにプリンを手に取った。
「お前の好きなものは全部覚えてる」
「じゃあ僕の一番好きなものは何?」
「俺だろ」
「自意識過剰ー」
「違うのか?」
「………違わない」
嬉しそうに微笑みながら、レイリはシュノの前にプリンを差し出した。
「あーん」
言われるがままにプリンを口に含み、幸せそうなレイリをワクワクしながら眺めた。
レイリはお気に入りのプリンにかなりご満悦で、大きめのカップにフルーツやクリームがトッピングされた可愛らしいプリンは既に跡形もなくなっていた。
「……ん?」
レイリが急に難しい顔をして口をもごもごさしてる。
シュノはにやりと笑ってレイリの唇を奪った。
口の中に固いものが当たってレイリが顔をしかめると、ゆっくりとシュノが唇を離した。
「なに…それ」
シュノが唇に挟んでいるのは薄い紙に包まれた何かで、それを紙から取り出すと布で綺麗に拭いてレイリの左手を取った。
「クリスマスプティング。
お前、こうゆうの好きだろ?」
そういって薬指に嵌められたのはレイリの瞳と同じサファイアの嵌め込まれた指輪で、シュノはその指輪にそっとキスを落とす。
「シュノ…」
「お前、無防備過ぎて心配だから。」
「僕にはシュノだけだよ?」
「お前、判ってるのか?
騎兵隊にだってお前の事抱きたいレベルで
好きなやつが結構居るんだぞ」
レイリは首をかしげながら、まじまじと
指輪を見た。
「でも、そんな人達から守ってくれるための指輪でしょ?」
「ああ」
「凄く嬉しい。
僕はもうシュノだけのものだね…」
「当たり前だ、他の奴になんか渡さない」
ぎゅっとレイリを抱き締めてキスをすると甘えるように抱き付いてきたレイリがニコッと笑った。
「もう一回シたい」
「明日起きれなくても知らないからな」
「いい、もう今はシュノの好きにして…」
レイリなりのプレゼントのつもりなのか、シュノは箱に掛けてあった赤と緑のストライプリボンをレイリの髪に結んだ。
「何?」
「クリスマスプレゼント、貰おうと思って」
「僕を?」
「そう、レイリを丸ごと。」
「ふふ、いいよ…僕はもう君に売約済みだから」
ぎゅっと抱きついてくるレイリをベットに押し倒す。
恥ずかしそうに頬を染めながら、どうにかシュノを喜ばせようと懸命なレイリにこみ上がる愛しさを抑えきれない。
「レイリ、愛してる」
「っ、僕も…僕もシュノを愛してる、ずっと…ずっと愛してる…」

粉雪は砂糖みたいにふわふわと甘い夜を彩っていく
二人は愛を確かめあいながら聖なる夜が過ぎていく

たりないもの




足りないものは判っている。
ほんのすこしの勇気と自信。
それさえあれば、僕はこの気持ちをきっと正しく伝えることが出来るのに。


「シルフ、あったですか?」
モコモコした暖かそうなコートに、マフラーや耳当て、手袋を完全装備したリアンは皮袋をぎゅっと抱き締めてシルフィスに近寄ってきた。
「いや、まだみたい。
もう少し奥の方かもしれないね。」
「どうするですか、あんまり奥は危険だってせんせ言ったですよ?」
「うーん…少し様子を見てダメそうだったら姉さんたちと合流しよう。
念のため、リアンはここで待ってて」
「でも、シルフ…」
「万が一の事があったら君が姉さんに知らせて、大丈夫だと思うけど…」
そういってシルフィスは皮袋をリアンから受け取り、森の奥に入っていった。
何故、彼等がこんなことになっているかというと、今日は授業の一環として二人一組になり森で薬草採集を命じられた。
冬の森は雪が積り、薬草は姿を隠してしまっているため、雪を掻き分けて探さなければいけなくて、集合場所から近い位置に生えている薬草は早い者勝ちで既に根こそぎ奪われていて、その激しい争奪戦に負けた者やあえてその場所を避けたものは奥地まで足を運ぶことを余儀なくされた。
「ロゼなら、群生しやすい場所とか知ってそうなんだけど…聞いておけばよかったなぁ。」
独り言を呟きながらシルフィスはまだ新雪が降り積もったばかりの場所を掻き分けた。
「あったですか?」
「ないみたい、まだ別の…」
当然のようにかけられた声に振り返ったシルフィスが目を丸くした。
「リアン、待っててよかったのに…」
「シルフだけ危ないのだめです。
リアンも一緒に行きます。」
ぎゅっと、手袋の上からシルフィスの手を握って微笑むリアンに、頬を紅くして立ち上がった。
「リアンは…ぼ、僕が…守るから!」
「リアンもシルフを守るです、頑張りましょう」
にっこり笑ったリアンと手を繋ぎながら、薬草が映えていそうな場所を片っ端から掘っていくとようやく目的の薬草を見付けた。
「リアン、あったよ!」
薬草を適量摘んで袋に入れると、リアンが大事そうにその袋を抱えて来た道を引き返していく。
良質な薬草を手に入れられて二人は満足そうで気が緩んでいた。
「ちょっと、止まりなさい」
不意に闇色の猫が声をあげた。
「どうしたの、リリー?」
「気付いていないの?貴方たち囲まれてるわよ」
歩みを止めて辺りをゆっくり見回すと、木々の間の暗がりがら闇に紛れてギラギラと光る目が無数に有ることに気付いた。
じわじわと距離を詰めてきているそれらはきっと無理に突破しようとすれば襲いかかってくるに違いない。
こんなとき、敵を凪ぎ払う力のある姉がいれば…窮地を脱するために頭の切れる幼馴染みがいれば…そんな思考がシルフィスの頭をぐるぐる巡り、慌てて振り払った。
(だめだ、僕がしっかりしないと。
僕がリアンを守らなきゃ…)
「シルフ…」
リアンが不安そうにぎゅっとシルフィスの服をつかんだ。
「リアン、走るよ」
リアンの手を掴み、雪に足をとられながら数の少なそうな場所を選んで突き進む。
迫ってくる魔物は魔術で追い払い、来た道を真っ直ぐに引き返していく。
「はぁ、はぁ…」
「まだ追っかけてくる…」
雪は二人の体力を奪い、足元がだんだん覚束無くなる。
「あっ…」
雪に足をとられてリアンが雪の上に伏した。
魔物が後ろから迫ってくる。
足の早い魔物ではないようだが、追い付かれる距離だ。
シルフィスは迷わずにリアンにかけより、ぎゅっとリアンを抱き締めた。
「シルフ!」
「絶体に、守るから!」
魔物が鋭い爪を振り上げた。

「頭下げろ!」

大きな声と共に剣圧で魔物が吹っ飛んだ。
「シルフ、リアン無事?」
「姉さん!?」
シルフィスの目の前には大剣を手にしながら魔物を吹き飛ばす姉の姿に一安心した。
「ヴェリテ、後ろよろしく!!」
「ああ。」
二人は前後に分かれて魔物の集団を追い払っていった。
「助かったよ、ありがとう。
でも何で僕たちがここに居るって判ったの?」
「うん?ああ…ヴェリテが急に…」
「声がした、それをたどった。」
ヴェリテが剣をしまいながら言った。
「とにかく助かったよ、ありがとう。」
シルフィスを立ち上がって、リアンに手を差し出した。
「リアン、怪我ない?」
「はいです、シルフが守ってくれましたから」
リアンはぎゅっとシルフに抱きついた。
「かっこよかったですよ」
そういってリアンはシルフィスの頬に軽くキスを落とした。
リアンとしては、守ってくれてありがとうという信愛の証なのだが、シルフィスは顔を真っ赤にした。
「意気地無しね」
闇色の猫は寒そうにシルフィスのフードのなかに潜り込んでため息をついた。


好きの意味




すきって気持ちに素直になれない。
愛情とかよくわからない。
でも、あんたと一緒にいたいとおもった。
ずっと、ずっと、ずーっと。

それだけじゃ、理由にならないかな?


「さむ…」
悴んだ手にはぁっと息を吹きかけて温める。
外は粉雪がぱらぱらと降りしきっていた。
「会うの久しぶりだし、喜んでくれるといいけど…。」
緩みきった表情を浮かべて、ゆるく編まれた薄水色の三つ編みが風に揺れた。
はやる気持ちを抑えながら、ゆっくりとドアノブに手をかけた。
「ただいま、エンドローズ。」
慣れ親しんだ恋人の家の扉を開けると、小さな少女がろうそくの詰まったかごを持っていてこちらを振り返った。
薄い紫色の髪に金色の瞳のその幼い少女はリボンやフリル、レースなどがふんだんに使われたエプロンドレスを着ていて、サイドを束ねている髪には黄色い花の髪飾りが付いていた。
「えっと、だれ?」
「おきゃくさま?マスターに、ごよう?」
少女は無表情のまま首をかしげた。
「えっと、あんただれ?エンドローズは?」
「プリマはようせい、マスターはいま、おへやでねてる。おこしちゃだめなの」
「ふぅん、俺はアリシア。エンドローズの…」
「アリシア…?」
奥から慣れ親しんだ声がして、柔らかな桃色が飛び込んできた時には既に彼はアリシアの腕の中にいた。
「おかえり。」
「うん、ただいま。俺がいなくて寂しかった?」
ぎゅっとエンドローズの身体を抱きしめて冷えた身体を温める。
「うん、まぁ…それなりには?」
「久しぶりに会えたのにつれないなぁ。
そこは寂しかったーって素直に言えないの?」
「一人じゃなかったから、寂しくなかったのは事実だし。」
そういってエンドローズはきょとんとしているプリマを見た。
ようやく拘束から解放されたエンドローズはプリマを手招きした。
おぼつかない足取りでこちらに歩み寄るプリマを、アリシアはじっと眺めた。
「なに、これ」
むすっとわかりやすく嫉妬するアリシアを上目で見て、プリマの頭を撫でた。
「妖精。拾ったんだ。」
「ふーん…妖精って拾うものなの?」
「まさか、妖精は本来妖精の国から出てくることはないけど、この子はワケありでね。
国を追い出されてしまって衰弱してたところを俺が見つけて保護したんだよ。
今は契約して使い魔として働いてもらってる。」
「マスター、ろうそく…もってきた」
プリマはずいっとろうそくの入ったかごをエンドローズに差し出した。
「ありがとう、プリマ」
頭を撫でられて満足そうなプリマを横から見ていたアリシアは面白くなさそうにエンドローズをぎゅっと抱きしめた。
「今日は随分甘えてくるね?」
「寒いから、あっためてよ。」
「…だめだって、プリマが居るし。
寒いならお風呂沸いてるから、入っておいで。」
「むー。」
子供のように頬を膨らませて、アリシアはエンドローズから離れた。
「お風呂、はいってくる。」
「うん、行っといで。」
エンドローズはにこっと笑って、プリマの手を引いて奥の部屋に姿を消した。
幼いプリマの手を引く姿は、親子のようにも見えるので余計に悔しくなる。
「あんたの近くに…一番そばに居たいのに…」
子供っぽいわがままはいわないでおこうと思っていた。
それでなくても仲間内からも外見は大人で中身は子供だと比喩されるのが気に食わないのに、これじゃあ反論の余地もない。
深くため息を吐きながら、暖かな湯船に身体を浸して温める。
「俺が欲しかったのは、こんなぬくもりじゃないのに。」
膝を抱えて、俯いたまま小さな声で呟いた。
「…さみしいよ…」
溜息とともに消えた言葉は、ぬくもりとともに溶けていった。


「で、どうしてこうなった?」
髪を丁寧にタオルで拭いてゆくる編まれていた三つ編みを編みなおすエンドローズを見上げた。
「久しぶりに会ったし、なんだか甘えたそうだったから…ね?」
「そーそー、そうやってあんたは俺だけを甘やかしてくれればいいのー」
「すねないでよ、俺だってアリシアに会えなかったのは寂しかったんだよ。」
そう言って編み終わった三つ編みを離してぎゅっとアリシアを抱きしめた。
「寒いね、今日。」
「雪降ってたから、外は真っ白だった。」
椅子に座ったまま身動きがとれなくなってしまったアリシアを背後からぎゅっと抱きしめているエンドローズがくすくすと笑みをこぼした。
「プリマに妬いてた?」
「…うん。」
「よしよし、素直でよろしいね。」
「…あんたの、一番は俺じゃないと嫌なんだ。」
抱きしめる腕にそっと手を重ねる。
「俺の一番はずっとアリシアだよ?」
「わかってる、わかってるけど…心配なんだよ。
あんた、あーゆうちっさいのに弱いし。
性別ないのにあんな女物のひらひらした服着せたりとか…」
「あのね、人を変態みたいに言わないでくれるかな。
だって可愛い子が可愛い服着ていたら可愛いじゃない?」
先ほどの安心させるような言い回しとは違って、少し焦っているのか言葉尻があやしくなってくるのに、アリシアは少しだけ微笑んだ。
「プリマに構うのもいいけど、大概にしないと俺怒るから。
あんたは俺のものなんだからね」
そう言って、ぐいっと引き寄せて軽くキスをおとした。
「ん、そんなの言われなくても知ってる。」
「楽しんでるだろ、俺がこうしてあたふたしてるの見て。」
エンドローズはにっこり笑ってアリシアの腕の中に収まった。
「可愛いなぁとは思っているよ?」
「またそうやってすぐ子供扱いする。
俺、もう子供じゃないのに。」
抱きしめた身体をテーブルに押し倒して、柔らかな頬に手を沿わせる。
「身長も伸びたし、こうしてあんたを抱きしめてキスすることだって…」
「そうだね、出会った頃は小さくて可愛かったのに。」
「どうすれば、あんたの理想になれる?
俺、全然わかんない。」
思いつめたように顔を埋めてくるアリシアの頭を撫でて、天井を仰ぎ見ながら呟いた。
「そのままでいいよ、そのままのアリシアが好きだから。」
「……うー…」
ぐずる子供をあやすように頭を優しく撫でて、ようやく身体を離した。
「ほら、おいで?」
「……うん。」
体は大きくなっても、無垢な心のまま自分に全てをさらけ出してくるアリシアを、単純に愛しいと思っている。
アリシアもそんなエンドローズの気持ちは理解しているつもりだったが、いかんせん感情たちがざわついてセーブしきれない。
特に騎兵隊に所属するアリシアは遠征に参加することも多く、大半を離れて過ごしているために余計に。
一緒にベットに入って、抱きしめた恋人の身体が自分よりちいさく感じるようになったのはいつごろだったか…と、アリシアは腕の中に抱きしめた身体に力を込めた。
「すき、大好き…」
「知ってるよ」
「でもすき、すごいすき。あんなちびすけに負けないくらい好き」
「判ってる。それにプリマは…」
「でも、好きだから。聞いて、俺の言葉。俺の気持ち、ちゃんと届けたい。」
まっすぐな瞳が揺らぐこと無く真っ直ぐにエンドローズを見つめる。
「俺も、アリシアがすきだよ。
だから一緒に居るし、いつも君の帰りを待っている。」
「…ごめん、俺嫉妬ばっかりして。あんたから見たらまだまだ子供かもしれないけど…
頑張って大人になるから、嫉妬しないようにするから、嫌いにならないで…」
アリシアのいいところは気取らないこと、素直なところ。
こうして失敗も素直に認められるところ。
そんな謙虚な所に惹かれたエンドローズは、アリシアの頬に手を添えてそのままちゅっと軽くキスをした。
「嫌いにならないよ」
「…よかった」
久しぶりにあった恋人のぬくもりを感じながら、アリシアは幸せそうに目を閉じた。


嫉妬しても、すねたりしても、離れていても、
お互いの気持ちが繋がっていれば寂しくない。
今までも、これからも、この先もずっと。
そしてこれからは、小さな可愛い妖精が恋のキューピットになるのかもしれない。
それはまた、別のおはなし

フリージアの髪飾り



「どうしてお前は皆と同じことができないんだ!!」
「この落ちこぼれ、妖精界の面汚し!!」
「お前のような出来の悪い妖精はここには必要ない、何処へでも行っておしまい!!」


口々に、一斉に幼い子供を責め立てるのは、同じような子供サイズの人間。
子供は追い立てられるようにそこから逃げ出した。


ここは妖精の国。
妖精が集まり統治する国は豊かな自然と森の生き物や大人しい魔物が共存している平和な国。
そこに一人の落ちこぼれの妖精が居た。
妖精は他の妖精が出来ることが上手く出来なくて妖精の国を追い出されてしまった。
国を終われた妖精は歩き続けた。
なんにちも、なんにちも。
やがて体力も尽きて地面に倒れたまま一歩も動けなくなってしまい、死を覚悟した。
死ぬのって、怖いのかな…
なんて考えながらゆっくり目蓋を閉じようとしたときでした
「大丈夫かい?」
優しい声に目を開けると、柔らかな桃色の髪の青年が心配そうに顔を覗き込んでいた。
「……ぁ…」
妖精はかすれた声で、何か伝えようとするのに言葉が上手く出なくて、震える手をきつく握った。
「無理に喋らなくていい。
今手当てしてあげるから、じっとして」
妖精の体はボロボロだった。
裸足の足は傷だらけで傷口から雑菌が入って酷く膿んでいる。
指も爪が欠けて、体のあちこちに切り傷や内出血のあとが見られたが、極めつけは妖精の羽だった。
月の光を浴びて七色に輝く羽はその輝きを失い、ほぼ透明に近い色合いになっていて、かなり弱っているのが一目で判った。
青年は妖精を優しく抱き起こし、鞄から薬を取り出した。
「飲んでごらん、すぐに元気になるよ」
「ん…」
妖精は言われた通りに薬を飲み干した。
目蓋がだんだん重くなってきて目がかすみ、そのまま目を閉じた。
ぐったりしたままの妖精を抱き上げると、青年はそのまま自分の家に連れ帰った。


「ん…」
目を覚まして、見知らぬ光景に妖精は辺りを見回した。
「目が覚めた?どこか痛いところはない?」
先程の青年がベットの側に座っていて妖精の頭を優しく撫でた。
「あ、の…」
「君は妖精だよね?
妖精は妖精の国から出ることは滅多に無いと聞いていたけど、何か理由があるのか?」
妖精は何と言っていいか判らずに黙り込んでしまった。
妖精の中には国に居ることを窮屈に感じて人の世界に飛び出してくるはぐれ妖精も居て、その類いなのだろうと思うことにして青年は温かいハニーレモンの入ったカップを差し出した。
「暖まるよ」
そう言われて妖精は両手でカップを受け取るとハニーレモンに口をつけた。
「…あったかい…」
「所で、君は行く宛はあるの?」
妖精は首をかしげた。
「いく…あて…?」
「どこかに行く途中だった?
それなら送って…」
「ない、わたし、いらないこだから。」
妖精は表情を変えなかったが、何となく悲しんでいる気がして、ぎゅっと小さな体を抱き締めた。
「そうか、ならうちの子にならない?
ちょうど助手が欲しかったんだ。」
「でも…わたし、なにもできない
だいようせいさまが、おまえ、おちこぼれだって…だから…いらないから、どこかにいけって…」
妖精は国を追われた経緯を拙い言葉でぽつぽつと語った。
青年が理解したのは妖精が月の力を司る妖精で、上手く力を使いこなせずに妖精としての役割を果たせないことから妖精の長である大妖精に勘当されたという事だった。
満月の様な瞳が不安に揺れる様を見て、青年は妖精と契約して妖精を使役する主人になる事を決めた。
「俺の名前はエンドローズ。
君の名前は?」
「…ない、なまえはいちにんまえになったら、だいようせいさまが、くれる」
「そうか…じゃあ、俺が君に名を与えよう。
君は俺に遣え、俺は君に名を与え力を与える。
それでいいかな?」
妖精はエンドローズの服をぎゅっと握った。
「そうしたら…ここに、いていいの?」
「勿論だ」
「なら…いい…」
妖精がそっと目を閉じた。
ふわりと薄い金色の光が妖精を包み込む。
「汝を使役する者、エンドローズが汝に名を与える。
汝の名は…プリムローズ」

初めて名を与えられた妖精は契約の証としてフリージアの髪飾りを手に入れた。
これで妖精は一人ではなくなった。

「これからよろしくね、プリムローズ」
にっこり笑って優しく頭を撫でると、プリムローズは微かに口許を緩めた。
「はい、マスター」



とてとてと先程から忙しなくいったり来たりしている小さな姿を見て、エンドローズは小さな笑みをこぼした。
「プリマ、さっきから何を探しているんだ?」
「マスター、プリマはおせんたく…してた」
ヒラヒラのエプロンドレスを両手に抱えて水場と自室を行ったり来たりしていたらしい。
「何度も往復するのは大変だろう?
ほら、寄越しなさい」
「ひとりでも、できる…」
「いいから。
ついでに俺の洗濯物も一緒に洗ってしまおうか、今日は天気がいいしね」
「うん、プリマがんばる」
表情こそ乏しいが、出会った頃より大分感情を現すようになったプリムローズが洗濯物を抱えてよたよたしながら付いてくるのが愛しく感じるようになった。
「こんなこと、あの子の前で言ったら怒るんだろうけど…」
楽しそうに笑いながら、エンドローズは洗濯物の入った籠を持ち上げて水場に向かう。

今日はいい天気だから洗濯物が早く乾きそうだ。
余った時間はプリムローズを連れてどこかにいこうかと考えていると、よく聞きなれた愛しい声がエンドローズの名を呼んだ。
どうやら忙しい午後になりそうだと一人の笑いながらドアを開ける。


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