「先生ぇ、今日の訓練は何をするんでっすか?」
勢気は首と肩をならしながら言う。
「栗坂、これはなんと読むか答えろ」
斑鳩先生はボードツールに「偵察」の字を書いて言う。
「…えっと…さださつ?」
「これは偵察(テイサツ)と読むんだ、覚えておけ」
勢気の回答に対し、斑鳩先生は微笑みながら言う。
「ウオォッス!覚えたぜ!」
勢気は無駄に気合を入れて言う。
「栗坂、今日はお前に偵察をしてもらう」
斑鳩先生は地図ツールを展開しながら言う。
「偵察…?」
「そうだ、このコースを飛行し、この地点にも敵が居なかったら戻ってこい」
斑鳩先生は地図のコースを示しながら言う。
「…それだけ?…あっ!もしかすっと敵が居たらぶっ潰せとかですか先生ぇ!?」
勢気は拍子抜けしかけるが、敵が居たらという期待を持ち、斑鳩先生に尋ねる。
「その時は敵の出方次第だ、敵が攻撃してきたら攻撃しろ、逃げたら追わずに戻れ」
斑鳩は厳格な口調で勢気に言う。
「オッシャァァァ!!!栗坂勢気ぃっ!!陽炎零式!!ぶっとばすぜぇぇ!!!!」
斑鳩先生の言を聞くや、勢気は陽炎零式を加速モードにして発進する。
「…全く、あの馬鹿者は…小林、大橋、貴様らも蟒蛇弐式を装着して発進しろ、栗坂を影から援護してやれ」
斑鳩先生は溜め息混じりに呟き、史彦と大橋に出撃を命じる。
「わっかりました!」
-シュゥゥン-
-ギショォォォン-
「オッシャァァァ!!大橋惇様の初陣だぜぇ!!」
史彦と大橋は蟒蛇弐式を装着し、それぞれ発進していく。
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陰日本新潟県上空…
「俺様も機体も絶好調ぉぉぉ!!!」
-ゴォォォォォ-
勢気は気声を発しながら陽炎零式を錐揉み旋回させながら変則的な飛行をする。
-ピコッ-
「んん?…おお!?アンノウン!キタコレ!!!」
-ウゥゥゥゥゥゥン-
-ドォォォォォォォン-
陽炎零式の索敵レーダーに正体不明機の反応があり、勢気は『猛炎』の力を推進部に集中させて陽炎零式を超加速させる。
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「ステルス良好、さっさと終わらせよっと」
関東軍先駆衆である敷島芙蓉は、専用機である紅炎灰燼の掌を歪みに添える。
「駆除」
-バキュゥゥン-
芙蓉が『猛火』の力を歪みに放ち、一瞬の閃光の後に歪みは消滅する。
「ふう、長居は…」
駆除を終え、芙蓉は離脱しようとするが…。
「待ちやがれぇぇぇ!!!」
-ゴォォォォォ-
「やばっ!見つかった…!?」
勢気が叫びながら芙蓉の紅炎灰燼に迫り、芙蓉は慌てて回避行動をとる。
「おわぁぁ!?避けんじゃねぇぇぇぇ!!?」
-ドゴォォォォォォォン-
勢気は真っ直ぐに突っ込んでいき、丘陵地に激突する。
「んな…!何何!?今の…!?」
芙蓉は勢気の空振り具合に唖然とする。
「んのやらぁ!!男なら俺様とガチバトルしやがれぇぇぇ!!!!」
勢気は芙蓉を指差して叫ぶ。
「んな…!?あ…アタシは女の子だもん!この馬鹿ちんが!」
勢気の叫びにカチンときた芙蓉は勢気に反論する。
「うおおっ!?マジかよ!?…胸…ある!!ち○○…無ぇ!?マジすまねえ!!!」
芙蓉の反論を受けた勢気は、芙蓉の姿を確認して思わず謝る。
「ど…何処見てんのよ!?このスケベ!」
勢気の燃える様な熱い視線を受けた芙蓉は、思わず胸と股間を隠しながら言う。
「だぁぁ!!!こんなに可愛い女の子が相手だなんて聞いてねぇぞぉ俺様ぁぁ!!!」
勢気は心底悩み、頭を抱えて叫ぶ。
「え…」
勢気の嘘偽りの無い言が芙蓉の心に響き、芙蓉は思わず勢気を見つめる。
其処へ…
「見てらんねえ、何やってんだ勢気!」
史彦が援護に駆けつけ、芙蓉の紅炎灰燼に銃口を向ける。
「小林ぃ!コイツの相手はこの大橋惇様が…」
大橋が小林の前に展開し、芙蓉の姿を見て息を呑む。
「!…何処見てんのよ!!」
-バキュゥゥン-
「熱ちちちちぃぃ!!!」
胸を凝視している大橋に嫌悪感を抱いた芙蓉は猛火球を放ち、火球を避け損ねて尻に火が付いた大橋は、川に向かっていく。
「うおおっ!?すげー炎だ!?お前マジスゲーよ!!!」
高いレベルの『猛火』の力を見せた芙蓉に対し、勢気は本気で感心して言う。
「…アタシは…敷島芙蓉だよ、馬鹿ちん」
芙蓉は勢気に名前を教える。
「お…おう!俺様は栗坂勢気だぜ!!宜しくな!敷島!」
「…えと…うん、勢気…」
勢気は手を出し、芙蓉は勢気の手を握る。
…次の瞬間
「…其処までだ、神妙にしろ」
-ザシッ-
「!!」
斑鳩先生率いる部隊が現れ、芙蓉は身動きがとれなくなる。
「…大道寺御曹司に伝えろ、情報は誤りであったとな」
「ハイッ!直ちにあのボンクラに伝えます!」
斑鳩先生は部下に命じ、部下は情報を構築して大道寺御曹司に送信する。
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数時間後…
「ふむふむ、此処に魔眷属の集中する歪みがあって…、君はそれを駆除していた訳だ」
「…はい」
「理由はそれで十分だ、パパには僕が伝えておこう、では…解散!」
大道寺御曹司は情報を構築して代表に送信するや、皆を解散させる。
「プライベートの時間だ、朱花は僕と…」
-ガシッ-
「!!?」
「何だ?御曹司」
大道寺御曹司が何かを言いかけた途端、斑鳩先生は大道寺御曹司にアイアンクローをお見舞する。
-ギリギリギリギリ-
「ぎ…ギブアップ…!」
「………」
-パッ-
大道寺御曹司がギブアップ宣言をすると、斑鳩先生はアイアンクローを解除し、大道寺御曹司は床に座り込む。
「ふう…頭が潰れるかと思ったよ…」
大道寺御曹司は頭を深く下げて見上げようとするが…
「次は踏まれたいのか?御曹司…」「い…いえ、滅相も御座いません」
斑鳩先生の凄まじい殺気を含んだ言を受け、大道寺御曹司は土下座をしたままの姿勢で後退していく。
「…敷島は私が預かる、三春…後は任せるぞ」
「はい、お任せ下さい」
斑鳩先生は芙蓉の手を引きながら言い、三春は微笑みながら応え、大道寺御曹司の元に近づいていく。
「…行くぞ敷島」
「あ…はい」
「…跳躍!」
斑鳩先生は芙蓉の手を取り、別空間へと跳躍する。
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天郷家にて…
「………」
暦は自室のベランダから夜空を見上げる。
帰宅してからずっとベランダに出て天を見上げていたのか、暦は制服姿のままである。
月明かりに照らされた姿が不思議と神秘的に映る。
「お嬢、そろそろ準備が整います」
苅藻が障子越しに言う。
「…わかった、あれも…そろそろ来る頃だ」
暦は夜空を見上げながら言う。
「お嬢が言っていた…歪みが…遂に…」
「………」
苅藻は冷静に言い、暦はゆっくりと眼を閉じる。
…その直後…
-ヴゥゥゥゥゥゥゥゥン-
夜空に巨大な歪みが発生し、風景や人々が歪みに呑み込まれていく…。
歪みは巨大化していき…、陰日本全体を呑み込んでいく…。
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お目汚し失礼。