2022.04.11
お誕生日おめでとう絵。
2022-4-20 21:58
音也
2022-4-20 21:40
[utpr]春の話01、リポート
[Springreport]
■リポート
「お疲れ様でした」の言葉に、体から力が抜ける。
今日の撮影時間は当初の予定より押した。
いや、大幅な前倒しになったのだ。
メインキャストを務める俳優さんが、訃報を受けた。本番前の控室で、携帯電話を見つめ微動だにしない姿に、ほかの出演者が「そろそろ出番です」と声をかける。そこでようやく時間が動き出した。目を大きく見開いたままの瞳をゆっくり細め、静かに吐き出す。手を組み額を押し当て「そうかそうか」と小さく唱える姿は祈るようだった。
直接の血縁があるわけではないが、自分を育ててくれたのはその人だ、と慕う人らしい。今夜は通夜で、明日には葬儀が組まれている。
「ここから随分と離れているしね、すぐに会いに行けないのは重々承知だったが。こういう日がいつか来るとは思ってたけどなぁ」
見上げた空は青く雲一つなく、明日もこの天気だといいな。そしたらあんひとも、迷わず空まで登っていけるだろう、そう言って目を細めた。葬儀の時間は、彼を含めたメンバーでの撮影の予定が入っている。
「そうか。そうか」
冠婚葬祭において、葬儀だけが、いつ訪れるかわからない。間に合うも間に合わないも、見送るときばかりは、心の準備をさせてくれない。
まだ身の回りでそれを経験したことのない自分は、その人の後ろ姿に、出会う前、小さな彼の姿を重ねた。
それを知ってからの監督の判断は早かった。撮影の順番を大幅に変え、その俳優の方のシーンを先にまとめて撮り、次いで未成年の出演者の携わるシーンを、最後に残りのシーンをまとめて撮る方向へ変わった。
「もうこのまま残りのところもやっちゃおっか!」
不在の出演者に声掛けをすれば、今日明日に必要なシーンの人材も運よくそろうとのことで、こりゃいい!と決まりだ、と。
「そうすりゃ俺も明日まるっと休みになんのよー」
と軽いノリで言うが、誰もそれを非難はしなかった。それはその俳優への配慮もあってだから。
明日はゆっくりお見送りを、と出演者に送り出されるその人は、深々と頭を下げる。
「こんなにしてもらって、俺まで一緒に行っちまいそうだ」
「そりゃ困ります。ちゃんと手え振ってさよならして。明日の夜には帰ってきてくださいね。あ。土産とかもいらないんで」
監督から行った行ったと押し出されるまで、何度もありがとうと、涙ぐみながら言葉をかけていた。最後を見届けることのできる安堵が、表情に現れている。その表情を見て、姿知らぬ故人の笑顔が思い浮かんだ。なにより、長年この業界で生き続けたその俳優の、堅実に培ってきた人徳にもよるのだ。
急遽の事で出演者にはと弁当が夕食として配布された。スタッフが気を遣ってくれ、弁当を買い出しに行ってくれたが、この時間だからコンビニの梯子で、内容もばらばらだった。若手の自分は年長者に先を譲り、残ったのはカロリーのそこそこありそうな揚げ物の詰まった弁当だった。今は無性に、それも生きる糧だと感じた。すぐには食べきれないだろうが、有り難くいただこうと手を合わせた時、
「あ。一ノ瀬さんがお弁当食べてる。葉っ……野菜しか食べないって君のとこの事務所の、一十木くん、彼が言っていたから。……サラダも買ってきたけど食べる?」
「……それは、いらぬご心配をおかけしました。他の方々は?もし誰もいらっしゃらなければ助かります」
どこからでもひょっこり現れてくるのだから気が気ではない。このスタッフと音也がどういった関わりなのかは気になるが、こんな形で助け舟を出されるとは思わなかった。
「スイーツの方が好評だったみたいで…….よければ貰ってやって」
結局、サラダと揚げ物弁当が手元にやってきた。
もうひとふん張りだぞーと、監督の声が響く。当初の時間はかなり過ぎているが、事をなしえた達成感がこの場を一つにまとめている。この世で誰かが一人旅立った後だと言うのに、どこか心地よさすら感じる時間だった。
予定外の出来事ではあったが、現場はかえって緊張感が漂い、シーンと合間っての一発撮りで通ったのだ。
朝から入り、夜の10時半。長時間にわたる撮影だった。
それでも最後まで残った面々からはタイミングが良かったね、監督やスタッフの切り替えの早さだよと、みな、今頃は通夜に向かっているであろう俳優への安堵と、予定外のオフの時間をどう過ごすか、話題が花咲く。
私も、明日は夕方からST☆RISHでグループ出演する番組撮影だけだ。半日以上の時間をどう有意義に過ごすかを考えていた。
夜空を見上げ、寒さに身体が縮こまる。
花冷えという言葉がある季節だ。
ここ数日暖かかったのに今日はぐんと気温が下がる。
この時期、服の着合わせは人々の悩みだ。春物のコート下ろしたのに寒すぎて着られない。
日中暖かいからって薄着できたら死にそう。昨日まであんなに寒かったのに何でこんなに今日は暑いのか。
ニュースキャスターが夜は冷え込みますから、調整できる服装を。
毎年のこととはいえ、予想はつかない。まるで誰かの様だ。
今年の桜は三月末が満開で、もう一週間としないうちに薄紅は新緑へと変わっているだろう。植物たちからすればこの季節はどう思えるのだろうか。
明後日からまた急に暖かくなるらしいと、この気難しい季節に彼は生まれた。
そう。あと数日で音也の誕生日だ。
.
■リポート
「お疲れ様でした」の言葉に、体から力が抜ける。
今日の撮影時間は当初の予定より押した。
いや、大幅な前倒しになったのだ。
メインキャストを務める俳優さんが、訃報を受けた。本番前の控室で、携帯電話を見つめ微動だにしない姿に、ほかの出演者が「そろそろ出番です」と声をかける。そこでようやく時間が動き出した。目を大きく見開いたままの瞳をゆっくり細め、静かに吐き出す。手を組み額を押し当て「そうかそうか」と小さく唱える姿は祈るようだった。
直接の血縁があるわけではないが、自分を育ててくれたのはその人だ、と慕う人らしい。今夜は通夜で、明日には葬儀が組まれている。
「ここから随分と離れているしね、すぐに会いに行けないのは重々承知だったが。こういう日がいつか来るとは思ってたけどなぁ」
見上げた空は青く雲一つなく、明日もこの天気だといいな。そしたらあんひとも、迷わず空まで登っていけるだろう、そう言って目を細めた。葬儀の時間は、彼を含めたメンバーでの撮影の予定が入っている。
「そうか。そうか」
冠婚葬祭において、葬儀だけが、いつ訪れるかわからない。間に合うも間に合わないも、見送るときばかりは、心の準備をさせてくれない。
まだ身の回りでそれを経験したことのない自分は、その人の後ろ姿に、出会う前、小さな彼の姿を重ねた。
それを知ってからの監督の判断は早かった。撮影の順番を大幅に変え、その俳優の方のシーンを先にまとめて撮り、次いで未成年の出演者の携わるシーンを、最後に残りのシーンをまとめて撮る方向へ変わった。
「もうこのまま残りのところもやっちゃおっか!」
不在の出演者に声掛けをすれば、今日明日に必要なシーンの人材も運よくそろうとのことで、こりゃいい!と決まりだ、と。
「そうすりゃ俺も明日まるっと休みになんのよー」
と軽いノリで言うが、誰もそれを非難はしなかった。それはその俳優への配慮もあってだから。
明日はゆっくりお見送りを、と出演者に送り出されるその人は、深々と頭を下げる。
「こんなにしてもらって、俺まで一緒に行っちまいそうだ」
「そりゃ困ります。ちゃんと手え振ってさよならして。明日の夜には帰ってきてくださいね。あ。土産とかもいらないんで」
監督から行った行ったと押し出されるまで、何度もありがとうと、涙ぐみながら言葉をかけていた。最後を見届けることのできる安堵が、表情に現れている。その表情を見て、姿知らぬ故人の笑顔が思い浮かんだ。なにより、長年この業界で生き続けたその俳優の、堅実に培ってきた人徳にもよるのだ。
急遽の事で出演者にはと弁当が夕食として配布された。スタッフが気を遣ってくれ、弁当を買い出しに行ってくれたが、この時間だからコンビニの梯子で、内容もばらばらだった。若手の自分は年長者に先を譲り、残ったのはカロリーのそこそこありそうな揚げ物の詰まった弁当だった。今は無性に、それも生きる糧だと感じた。すぐには食べきれないだろうが、有り難くいただこうと手を合わせた時、
「あ。一ノ瀬さんがお弁当食べてる。葉っ……野菜しか食べないって君のとこの事務所の、一十木くん、彼が言っていたから。……サラダも買ってきたけど食べる?」
「……それは、いらぬご心配をおかけしました。他の方々は?もし誰もいらっしゃらなければ助かります」
どこからでもひょっこり現れてくるのだから気が気ではない。このスタッフと音也がどういった関わりなのかは気になるが、こんな形で助け舟を出されるとは思わなかった。
「スイーツの方が好評だったみたいで…….よければ貰ってやって」
結局、サラダと揚げ物弁当が手元にやってきた。
もうひとふん張りだぞーと、監督の声が響く。当初の時間はかなり過ぎているが、事をなしえた達成感がこの場を一つにまとめている。この世で誰かが一人旅立った後だと言うのに、どこか心地よさすら感じる時間だった。
予定外の出来事ではあったが、現場はかえって緊張感が漂い、シーンと合間っての一発撮りで通ったのだ。
朝から入り、夜の10時半。長時間にわたる撮影だった。
それでも最後まで残った面々からはタイミングが良かったね、監督やスタッフの切り替えの早さだよと、みな、今頃は通夜に向かっているであろう俳優への安堵と、予定外のオフの時間をどう過ごすか、話題が花咲く。
私も、明日は夕方からST☆RISHでグループ出演する番組撮影だけだ。半日以上の時間をどう有意義に過ごすかを考えていた。
夜空を見上げ、寒さに身体が縮こまる。
花冷えという言葉がある季節だ。
ここ数日暖かかったのに今日はぐんと気温が下がる。
この時期、服の着合わせは人々の悩みだ。春物のコート下ろしたのに寒すぎて着られない。
日中暖かいからって薄着できたら死にそう。昨日まであんなに寒かったのに何でこんなに今日は暑いのか。
ニュースキャスターが夜は冷え込みますから、調整できる服装を。
毎年のこととはいえ、予想はつかない。まるで誰かの様だ。
今年の桜は三月末が満開で、もう一週間としないうちに薄紅は新緑へと変わっているだろう。植物たちからすればこの季節はどう思えるのだろうか。
明後日からまた急に暖かくなるらしいと、この気難しい季節に彼は生まれた。
そう。あと数日で音也の誕生日だ。
.
前の記事へ
次の記事へ
カレンダー
カテゴリー
アーカイブ
- 2024年5月(3)
- 2024年4月(1)
- 2024年3月(4)
- 2024年2月(2)
- 2024年1月(2)
- 2023年12月(1)
- 2023年11月(2)
- 2023年10月(3)
- 2023年9月(8)
- 2023年8月(1)
- 2023年7月(5)
- 2023年5月(3)
- 2023年4月(1)
- 2023年3月(13)
- 2023年2月(2)
- 2023年1月(7)
- 2022年12月(3)
- 2022年10月(3)
- 2022年9月(1)
- 2022年7月(11)
- 2022年6月(3)
- 2022年5月(15)
- 2022年4月(5)
- 2022年3月(1)
- 2022年2月(5)
- 2022年1月(3)
- 2021年8月(5)
- 2021年6月(3)
- 2021年4月(6)
- 2021年3月(4)
- 2021年1月(3)
- 2020年11月(2)
- 2020年9月(2)
- 2020年8月(4)
- 2020年7月(3)
- 2020年5月(2)
- 2020年4月(4)
- 2020年3月(5)
- 2020年2月(6)
- 2020年1月(1)
- 2019年12月(9)
- 2019年10月(1)
- 2019年9月(4)
- 2019年5月(2)
- 2019年4月(7)
- 2019年2月(2)
- 2018年12月(3)
- 2018年11月(1)
- 2018年9月(3)
- 2018年8月(6)
- 2018年7月(3)
- 2018年6月(6)
- 2018年5月(1)
- 2018年4月(8)
- 2018年3月(1)
- 2018年2月(9)
- 2018年1月(2)
- 2017年12月(13)
- 2017年11月(1)
- 2017年10月(7)
- 2017年9月(7)
- 2017年8月(3)
- 2017年7月(12)
- 2017年6月(5)
- 2017年5月(9)
- 2017年4月(9)
- 2017年2月(6)
- 2016年12月(4)
- 2016年11月(3)
- 2016年10月(8)
- 2016年9月(1)
- 2016年8月(1)
- 2016年7月(5)
- 2016年6月(7)
- 2016年5月(6)
- 2016年3月(14)
- 2016年2月(3)
- 2016年1月(1)
- 2015年12月(4)
- 2015年9月(12)
- 2015年8月(1)
- 2015年7月(1)
- 2015年6月(8)
- 2015年5月(10)
- 2015年4月(7)
- 2015年3月(4)
- 2015年2月(3)
- 2015年1月(1)
- 2014年12月(7)
- 2014年11月(3)
- 2014年10月(5)
- 2014年9月(8)
- 2014年8月(3)
- 2014年7月(1)
- 2014年6月(6)
- 2014年5月(1)
- 2014年4月(2)
- 2014年3月(5)
- 2014年2月(5)
- 2014年1月(2)
- 2013年12月(3)
- 2013年11月(4)
- 2013年10月(4)
- 2013年9月(4)
- 2013年8月(5)
- 2013年7月(2)
- 2013年6月(9)
- 2013年5月(3)
- 2013年4月(4)
- 2013年3月(6)
- 2013年2月(8)
- 2013年1月(7)
- 2012年12月(6)
- 2012年11月(6)
- 2012年10月(12)
- 2012年9月(7)
- 2012年8月(16)
- 2012年7月(8)
- 2012年6月(10)
- 2012年5月(8)
- 2012年4月(8)
- 2012年3月(7)
- 2012年2月(13)
- 2012年1月(11)
- 2011年12月(6)
- 2011年11月(12)
- 2011年10月(12)
- 2011年9月(5)
- 2011年8月(6)
- 2011年7月(10)
- 2011年6月(10)
- 2011年5月(12)
- 2011年4月(10)
- 2011年3月(7)
- 2011年2月(17)
- 2011年1月(8)
- 2010年12月(5)
- 2010年11月(11)
- 2010年10月(13)
- 2010年9月(2)
- 2010年8月(15)
- 2010年7月(10)
- 2010年6月(9)
- 2010年5月(8)
- 2010年4月(10)
- 2010年3月(15)
- 2010年2月(11)
- 2010年1月(24)
- 2009年12月(15)
- 2009年11月(22)
- 2009年10月(13)
- 2009年9月(10)
- 2009年8月(2)
- 2009年7月(18)
- 2009年6月(12)
- 2009年5月(5)
- 2009年4月(9)
- 2009年3月(13)
- 2009年2月(12)
プロフィール
性 別 | 女性 |
誕生日 | 6月14日 |