どんな人を好きになるか?
わかんないよ。好きになってみないと。だけど、その人を好きになった時、俺はその人の事、きっと大切で、幸せになって欲しいって思うんだろうな。それを俺が叶えられるようになりたい。その人が好きな人なんだから。


同室の相手は、あのHAYATOだった。
正確には、HAYATOの弟だって。そんなのいたんだ。
中学の時もHAYATOのファンの子はいたし、俺も好き。面白くて。よく朝のニュースみてるよ。でもHAYATOが持つ、雰囲気とか、そこから好きだったから、それってどこから来るのかなって。俺自身にもわからなかった。
人に対して、苦手な部分を探して見つけるより、いいなって思うところが見つかったほうが、きっと楽しくなる。
トキヤを初めてみたときもそう。
男の俺から見ても、綺麗な顔をしてるって思った。
でも、いつも楽しそうじゃない。どこか無理をしている。
きっと笑えば、すごく素敵なのに、そこから抜け出せずにいる。
そう感じたから、俺ができることはなんだろう。俺が知っていることは、トキヤはたいてい知ってるし。
ああそうだね。一人でいると、いつまで経ってもひとりなんだ。
俺はそばにいることしかできない。
でもそれが、俺ができることなんだよ。

「トキヤの字、真っ直ぐで」
好きだよ。
字が綺麗で、思わず言っちゃった。
記入欄に書かれた名前は、枠からはみ出ることもなく、それでいて、小さすぎない。綺麗なバランス。
トキヤは、零れそうなくらい目を見開いた。
さっきまでの仏頂面が、どこかに吹き飛んだ。
すっごく、無垢な表情。あ、この感じ、好きだな。
本当にそれくらいのはじまりだった。
そういう好きがいくつも咲いていく。


それにね、昔っからそうなんだけど。
好きってさ、口じゃなく、心のほうが先に感じてる。俺、うまく説明できないんだよ。
ドキドキしたり、ソワソワしたり、心が暖かくなる。見ると嬉しくなる。歌いたくなる。そんな気持ちがビビッと駆け巡るんだ。それを体の中に留めるなんて無理。
気持ちを伝えないと、苦しくて仕方ない。
伝えたくても伝えられないのは、苦しいよ。
この思いを届けたい。
聞いてほしい。
それが、同じ思いであればもっと嬉しい。
そう。本当は、届けたくても届けることができなかった、あの日の俺がね、そう言ってる。


「トキヤ、俺の名前書いてみてよ」
「何故ですか」
「なんとなく。トキヤの字綺麗だから、俺の名前書いてほしいなって思って」
「だから、何に使うんですか」
「使わないよ〜」

結局ゴリ押しで、手元にあった紙に書いてもらった。
吹っ飛んでいたた表情は、元の場所に帰ってきつつあるけど。なんかよかったかも。
意味がわからない、と言いながらも、慎重に一画ずつ形をなしていく、俺の名前。トキヤの中の俺。俺って、ちゃんと、誰から見ても『一十木音也』なのかな。そう考えるときもあるけど。
バランスがきれいに整えられて、綺麗に一直線。こんな風に見える俺もいるんだね。なんだかおかしいや。
「俺が書いたトキヤもあげるね」
「いりません」
トキヤの音也はそこにいる。
ドキドキしてきた。他の人に名前を書いてもらうことってほとんどないから。

「俺たち、『一』って同じ文字入っている。しかも最初に。『い』で始まって、『や』で終わるのも一緒だし、ひらがなで書いたら同じ17画!(※)一緒なことがもう3つもあるんだよ」
「はあ。言われてみればそうですが……。一ノ瀬なんて名前、別に珍しいわけではないでしょう?」
怪訝な顔をしながら、それでもじっと紙に書いた文字を見つめるトキヤ。そもそもそんな事考えたこともないですよと、感心混じりの呆れた声。
自分の命の音が、いくつの画数で構成されているか。俺も昔友だちに言われないと、考えたことなかった。
「あなたの姓は、馴染みがないですね」
「だよね。俺も俺以外まだ出会ったことがないんだ」

他にもいるのかな。
俺を産んだ母さんの姓は、愛島だった。
母さんの姉さんだから、育ててくれた母さんも、愛島のはず。

『一十木さん、お加減はいかがですか?』
『一十木さんのところの、音也くん』
あの名前は、母さんが、旦那さんから贈られた名前。
旦那さんの家族のことも、何も知らない。
二人の間には子供が生まれなかったのと、俺が来た頃には、旦那さんはなくなっていた。
この名前は、どこに繋がっているんだろうか。

「もしも『いっときときや』だったら18だし、『いちのせおとや』だったら16なんだよ?」
「だからなんで、……いえ、もういいです」
違う名字と名前を口にすると、やっぱり違和感があって、自分の名前が自分の『音楽』なんだって、気づく。
でも、この姓にならなければ、今こんなに一緒が揃うことはなかった。
一緒があったことが嬉しいけど。トキヤは嬉しくなかったかな?
難しい顔がどこかに行ったから、今回はこれでいっか。




どんな人を好きになるか?
好きになってみないとわからないよ。
あの日、渋々とでも俺の名前を書いてくれたその人に聞いてみないと。
運命論なんて、語ればたくさんあるけど、何よりも、始まりの音が一緒なのは、この名前のおかげ。



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好きになった人が好き(タイプ)、という原理はシャニライの2018Grateful WhiteDayの音也のストーリーより。
※ひらがな画数表でみると、『ち』は3画、『お』は4画となります。芳文堂さんの画数表と、無料の姓名判断サイトにおいての画数参照です。どうしてそうなるのかはわからないのですが、ここでは手書きの画数でいきました。
ちなみに、ひらがなで姓名判断した場合、それぞれの外格が入れ替わっているような感じでした。


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