漫画400話回想
イディアンさん、ちょっとしか出てきてないのに、切ない…。
マスターのお屋敷で、マスターの幻影を見てたシーンから、なんかこの人良いなって思ってました。
イディアンさんのマスターへの想いは勝手に恋だと思ってます。
ウロカイくんもなかなかだったけどw
毎度お馴染みフラン奥様設定。
マスターが睡眠期に入る前のルケドニア時代です。
「フラン、あれは態となの?」
妻の問いかけの指す意味が解らずに首を傾げた。
「イディアン様への対応よ。あんなに意地を悪くしなくても…」
「突っ掛かってくるのは、いつもあちらからだ。」
自分の答えに、妻は困ったように笑って、頬に手を添えた。
そういえば、以前のイディアンは妻に対しても自分と同様の態度を取っていたが、最近は穏便にしているようだ。
「心配にもなるでしょう。恋慕う孤高の方に、得たいの知れない者が仕えてるなんて。」
「…恋慕う?」
「そうよ。」
知らなかった?と続ける妻に対し、首を横に振る。
「イディアン様って、精神が何というか平坦な方なのよね。凪の止まった水面…というより、凍り付いた水面みたいに。でもね、そんなイディアン様が唯一、マスターへは精神を動かされるの。」
「…それはノブレスに対する本能的なものではないのか。」
主が、畏れ多くも惹かれざるを得ないほど、御心と御姿そのどちらもが美しく、気高い存在であることは理解に難くない。
自分も妻も、主のことを『愛している』と表明することに抵抗がないほどだが、ただし、それは自分達が人間として仕えている故のものである。
貴族にとって、ノブレスである主に対し、恋慕うという感情を持ち得るのだろうか。
「私も最初は判別がつかなかったのだけど、私がフランの妻だとお伝えしたら精神…というより、もっとはっきりと表情が穏やかになられたの。それで、あぁイディアン様のマスターへ精神の動きは恋心なんだなって。恋慕う方の一番お側にいる女が恋敵とは全く違うと気付いて安心されたみたい。無力な人妻は害なし、ということね。」
「…恋心ねぇ…」
「ほら、私、何処かの誰かさんのお陰で、恋心については一寸詳しいから。」
他でもない自分が百年近く袖にし続けたことを示すように笑う妻。
「好きな人のことは、周囲のことも含めて気になるし、心配になるものなのよ。」
少し意地悪な表情とは不釣り合いな優しい声。
そういうものか、と納得したところで、妻の声色が変わった。
「しかもそれが他の貴族と衝突しがちな危険人物だなんて心配しても心配し足りないはずだわ。」
表情通りの少し意地悪で、まるでからかうような声に、一瞬の驚きの後、溜め息を吐いた。
こんなところも可愛いと思ってしまう自分に呆れる。
「一先ず、これからは私に免じて、イディアン様にもう少し優しくして差し上げてね。」
「善処する。」
内心、彼方次第だと毒吐きつつ、満足そうな妻の笑みに少しは努力をしてみようかと思った。