眠るネタ3話のうちの1つ、昼編。
なお、夜編は随分前に書いた、夜中に寝惚ける話です。
ある日中のこと。
望月は、律儀にノックをしたところ、返ってきた声が思ったものと違い、不思議に思いながら、扉を開けた。
「お疲れ、モッチー。」
「おぅ。なんでお前がいんだ?鶴蝶。」
「九井に留守番頼まれた。」
キョロキョロと室内を見回しながら、歩みを進めた望月は、鶴蝶の向かいのソファに丸まる塊に、思わず驚きの声を上げた。
「うわっ、百合さん!?」
「モッチー、静かに!」
抑えた声の鶴蝶が叱られた望月は、思わず自身の口を押さえた。
「具合悪くて、寝てんだと。」
「え、大丈夫なのか。」
「軽い頭痛だってさ。もうすぐ竜胆が迎えに来るらしい。」
「なら、良いけどよ。」
望月が改めて視線を向けると、それを感じ取ったのか女弁護士が小さく身動ぎをした。動きの影響で、掛け布団代わりの大き目のストールが少しズレる。望月は、音を立てないよう近付くと、それを掛け直してやる。
そして、そのまま、ジッと眠る女弁護士を見詰めた。
「…モッチー?」
同僚といえど、女の寝顔にまじまじと見入る仲間に、鶴蝶は不審そうな声で呼び掛ける。望月は、視線を動かさずに口を開いた。
「こうして眼ぇつぶってっと、あんま似てねぇような気がしたんだけどよ、良く見ると少し蘭に似てるような気もするな。」
本人達が似ていると自慢する紫瞳は今、当然閉じられている。
「そうか?そもそも、百合さんは、どっちかっていうと竜胆に近くないか?」
「それは、取っ付き易さとか雰囲気だろ。ほら、見てみろよ。表情抜け落ちっと、蘭に近いぞ。」
望月に言われ、立ち上がった鶴蝶は歩み寄ると、じっと女弁護士の寝顔を見た。
「…確かに。少し蘭っぽいかも。」
「だろ。」
「でも、寝顔って意味だと、蘭と竜胆だって割りと似た感じじゃなかったか。」
「…それはそうだったかもな。」
二人は一度顔を見合わせてから、再度眠る女弁護士に視線を向けた。
「つーか、蘭と竜胆のセットと比べると、やっぱり百合さんはそこまでどっちにも似てないな。言われなきゃ姉弟だとは思わねぇわ。」
望月の言葉に、鶴蝶は素直に同意した。
「だな。姉弟だって解ってるから、似てるところを探す気になるだけで。」
二人は納得とばかりに頷き合う。
しかし、不意に鶴蝶が「あ!」と声を上げた。
「俺、もう一箇所、見た目で似てるところ知ってる。この間、灰谷姉弟と仕事だったときに気付いたんだ。」
「どこだ?」
望月の問いに、鶴蝶は自信満々に口を開く。
「耳。」
「耳ぃ?」
「そうそう。蘭と竜胆がピアス開けてるから耳朶は良く判んなくなってるけど、耳のこう、上の方が似てるんだよ。」
そう言いながら自身の耳輪に触れる鶴蝶に、望月も倣うように自身のに触れる。
「んなとこ、気を付けて見たことねぇわ。」
「俺も偶然気付いたんだよ。でも、耳って、あんま変わんねぇから、人捜しとかに便利らしいぞ。」
「へぇ。」
そして、二人はまた、女弁護士の、今度は耳のあたりに視線を向けた。
そのとき、小さなノックの音がして、竜胆が姿を現した。
「姉ちゃん迎えに来たんだけど…二人して、何してんの。」
いやに女弁護士に近い位置に立つ二人に、竜胆は訝しげな目を向ける。
鶴蝶と望月は、女弁護士に向けていた視線を、今度は竜胆の、特に耳元に向けた。
「まさか姉ちゃんの寝顔が可愛いからって視姦?鶴蝶とモッチーでも、姉ちゃんに変なことしたら折るから。」
「おま、物騒なこと言うんじゃねぇよ。」
眉を顰める望月に、笑って竜胆は続けた。
「温情かけて、指にしといたげる。」
「足の?手の?」
「んなこと訊くな、鶴蝶…。」
「選ばせてやるよ。」
「答えるな、竜胆。」
溜め息を吐いた望月は、手を伸ばして竜胆の耳を引っ張った。
「うわっ、痛っ、何モッチー。」
「んー?さっさと百合さん、連れてってやれよ。」
「連れてくけど、え、何で俺、耳引き千切られそうになったわけ。」
引っ張られた耳を押さえながら、竜胆は女弁護士が眠るソファの前に膝を着いた。
そして、酷く甘い声で姉を揺り起こすのだった。