苦手なこともあるのです。というお話。
ココくんとやり取りさせるの、楽で好きなんですよね…(笑)
切る場所がわからなかったので、一括であげます!
「姉ちゃん、仕事終わった?昼、一緒に食べよ。」
昼になると同時に竜胆が顔を覗かせ、自席で伸びをしていた女弁護士は苦笑をした。
「竜胆。竜胆の分は竜胆の分で持たせたでしょう?」
「だって一緒に食べたいし。」
「百合さん達、今日は外に食べに行かねぇの?」
姉弟のやり取りに、九井は首を傾げた。
「今日はお弁当なの。」
「姉ちゃんが作ってくれたんだ。」
竜胆は嬉しそうに、弁当包みを持ち上げた。
「蘭ちゃんも混ぜろー。」
開いたままの扉から入ってきた蘭が竜胆の肩に頭を乗せた。
「まぁ、蘭まで来たの?」
「来ちゃった。」
女弁護士に答えると、竜胆同様手にしている弁当包みを持ち上げて見せる。
「兄貴、重い。」
「竜胆、お前抜け駆けしよーとしたろお。」
「別にしてねーよ。どーせ兄貴も来るって思ってたし。てか、どんどん体重かけてこないで!重いってば!」
じゃれ合う弟達を微笑ましく思いながら、女弁護士は立ち上がる。
「じゃあ一緒に食べましょ。…一くん、三人でソファー使ってしまって良いかしら?」
「どーぞ。」
もう少しで仕事がキリ良く終わる九井は、キーボードを叩きながら答える。
「姉ちゃん、俺飲み物淹れるよ。コーヒー?お茶?」
「そうね、お弁当だし、お茶をお願い。」
「はーい。」
「有難う、竜胆。」
自分の弁当包みをローテーブルに置いた竜胆は、給湯スペースに向かう。
「じゃ俺は姉さんの分、持ってくね。」
蘭は女弁護士が鞄から出した包みを手に取った。
「ごめんね、両手塞がっちゃってるから、姉さんのことエスコートできないや。」
「大丈夫よ、有難う蘭。」
女弁護士は微笑んで、ゆっくり歩く蘭と並んでソファーに向かう。
「りんどー、まだあ?」
「蘭。」
隣に座った蘭を、女弁護士はやんわりとたしなめる。
「今持ってくから待ってて!」
「焦らなくて大丈夫よ、竜胆。」
「ありがと、姉ちゃん。」
器用に3つのマグを持ってきた竜胆は姉を挟むように、兄の反対隣に着く。
「揃ったし、食べましょうか。」
姉の言葉に、弟二人は嬉しそうに包みを開けた。二人を嬉しそうに見た女弁護士も自分の包みを開ける。
「一緒に食べるなら、大きいランチボックスにすれば良かったわね。」
「えー。姉ちゃん、これが良いんだよ。兄貴におかず取られる心配も減るし。」
「そうそう、俺用に作ってくれてるって感じが良いの。でも、作ってくれる姉さんが大変なら俺は重箱とかでも良いよ。」
「お、俺だって姉ちゃんが楽な方で良いから!」
「じゃあ、今度は大きいのに詰めて、どちらが良いか検討しましょう。」
弟達に微笑みなら告げた女弁護士は手を合わせた。姉を見て、弟二人も同じように手を合わせた。そして「いただきます。」と声を揃えると、各々蓋を取り、食べ始めた。
それとほぼ同時に、九井が大きく息を吐いて、伸びをした。
「一くん、終わった?」
「あー、一先ず午前はここまでかなって感じ。」
「お疲れ様。」
女弁護士に応えた九井は不図疑問を口にした。
「てか、突然弁当なんてどうしたの。いつも外出たり、買ってきたりしてたじゃん。」
「うーん、一寸私の体重が増えてしまって。」
「百合さんの?」
女弁護士を見て九井は首を傾げた。太ってはいないどころか、正直、女性らしく出るところすら侘しい体型である。
「…隠れ肥満?」
「ばーか、九井。姉さんはBMI18以下の低体重だっつーの。」
「見てわかんねぇの、九井。」
お前らの姉が太ったっつったんだろーが、という言葉を九井は飲み込んで女弁護士を見た。
「体重を増やすと、どうしても足の負担が増えてしまうでしょう。だから、あまり体重を増やさないようにしてるの。」
「あぁ、なるほどね。」
「十年近く大きな増減がなかったのに、帰国したこの数ヵ月で5kg近く増えてしまって…どう考えても、毎日豪華なランチを食べていたせいだなって。夜も週の半分は外食だったし。」
「だから弁当で体重管理ってわけか。」
「えぇ。」
「そっか。」
答えた九井は立ち上がって三姉弟に歩み寄る。
「一くん?」
「んー、灰谷家の弁当ってどんなんかと思って。」
純粋な興味と疑問で九井は三人の弁当を覗き込む。
「ふーん、割りと普通なんだな。」
「何、ココちゃん。キャビアとかフォアグラでも入ってると思った?」
「ちょっと思った。」
蘭の問いに、九井はニヤリと笑って答える。
「姉ちゃんが作ってくれたから、普通の弁当だよ。普通の美味い弁当。」
「半分は昨日の残りで、もう半分は冷凍食品って感じだけどね。」
「弁当作ってくるだけ偉いって、百合さん。しかも弟の分までだろ。三人分ったら結構手間でしょ。」
少し恥ずかしそうに言った女弁護士に、九井は素直に感心してフォローした。
「これは姉さんが作ってくれたんだぜー。」
嬉しそうに蘭はウィンナーを箸で持ち上げて見せる。
「…灰谷兄弟がタコさんウィンナー…?」
「そっ、蘭ちゃんのリクエスト。」
ニコニコとアラサー男がタコの形を模したウィンナーを口に運んだ。
「俺のリクエストはね、これ。卵焼き!」
「り、竜胆。」
嬉しそうに九井に弁当箱の中を指し示した竜胆を、何故か女弁護士は遮る。
不思議に思いながら、九井は竜胆の指し示す先を見た。そして、思わず言葉を失う。
「一くん、恥ずかしいからあんまり見ないで…。」
茶色く焦げて、どうにも不格好な卵焼きらしいものがそこにはあった。
「あー、いやごめん、百合さん。一寸吃驚して。」
「あ、味はちゃんとしてるのよ。」
「うん、目茶苦茶美味いんだぜ。甘い卵焼きなんだ。」
女弁護士とは対照的に嬉々として言う竜胆。
「特別に蘭ちゃんの一つやるよ。」
「お、サンキュー。」
蘭が差し出した弁当箱から、九井は指でひょいと卵焼きを一つ摘まみ、口に運んだ。
「…甘くて美味い。」
「だろっ!」
嬉しそうに笑った竜胆の隣で、女弁護士は安心したように胸を撫で下ろした。視線を上げた女弁護士と眼が合うと九井は微笑んだ。
「一くん?」
「ん、百合さんも普通の人なんだなぁって。」
「え?」
「百合さん、いつも仕事完璧だしさ、何でも出来ちゃうのかなって思ってたから。それが卵焼き作るの少し下手とか、何て言うか人間味感じちゃって。」
「ふふっ、なぁにそれ。」
九井と女弁護士は小さく笑い合う。
「さて、三人もいんなら俺は外で食べてくるわ。」
「ごめんなさいね、一くん。」
「全然。少しゆっくり食ってくるから、留守番宜しく。」
離れて行く九井に、蘭が軽く手を振った。
「おー、いってらー。」
「あ、土産宜しくな!」
竜胆も軽く手を上げる。
「一くん、気にせずゆっくりしてきてね。いってらっしゃい。」
「いってきます、百合さん。」