三途とココ、仲が良いかはわからないのですが、東卍
梵天までずっと一緒な訳で、気心が知れてそうというか、まぁお互い下手なことはしなさそうな気がします。
歳も1歳差だし。
三途の場合、1歳上には竜胆もいますが、竜胆は蘭(やモッチー)とくっついてるだろうから。
ということで、たまにはだらだらとお喋りとかしてほしい。
「百合さんって、字も綺麗なのな。」
書類に添えられた付箋を見ながら、三途が言えば、九井が肯定の意の相槌を返した。
当の女弁護士は、今日は弟と三人仲良く非番である。
「変な名前とか、わざわざフリガナ振ってくれてんの。マメっつーか、親切っつーか。ま、助かるけど。」
「気遣い上手だからな、百合さん。」
「んとにな。ホントにあの弟共の姉貴か、疑わしいレベルじゃね?」
「言いたいことは解るわ。」
九井がクツクツと笑えば、三途も笑う。
それから、不図したように、書類から九井に視線を動かした。
「でも、そうは言っても、かなり変人だよな、百合さん。お前もそう思わねぇ、九井?」
「そうか?掃き溜めに鶴レベルで、ここじゃ真っ当だろ。」
「弟に対してって意味で。」
「あー…それは、まぁ…」
言葉を濁す九井に、三途はとうとうと語り始めた。
「この間、切り取り行ったときなんだけどよ…」
三途と蘭、そして女弁護士が揃って、取り立てに行ったときのこと。
何故女弁護士が同伴したかといえば、その場で書かせる書類があり、その上相手も弁護士だったからである。三途も蘭も、どんなにこの業界が長くなったとはいえ、餅は餅屋もいうわけだ。
マンションのオートロックを、事前に入手した鍵で突破すると、三人は部下を引き連れ、悠々とエレベーターに向かう。一部の部下は非常階段へ回し、エレベーターには数名で乗り込んだ。
珍しく荒事に姉が同伴していることに、蘭は心配2割、嬉しさ8割だった。やる気はいつもの5割増といったところか。適宜女弁護士に手を貸しながら、上機嫌で目的の部屋の前に着き、インターフォンを鳴らす。
応答がないのを確認すると、蘭は扉を叩いた。
「こんにちは〜!お留守ですかあ?いらっしゃいますよね
?」
壊さんばかりの勢いで暫く扉をノックし続けると、やがて解錠の音と共に、扉が細く開いた。
「こんにちは、先生。どぉも、梵天でございます
。」
口調は戯けながらも、素早く足を挟み込み、扉が閉まらないようにした上で、ぐいと抉じ開ける。
「まあまあ、中でお話しましょーよ。ってことで、お邪魔しま
す。」
そのまま晴れやかな笑顔で、靴も脱がずに上がり込めば、その後ろに部下が続く。
三途が女弁護士に手を貸そうと振り返ると、女弁護士は聖母のように微笑んでいる。
「どうしたんだよ、灰谷先生。」
場にそぐわぬ笑みに、三途が不審そうに首を傾げれば、女弁護士は照れたように笑った。
「あら。ごめんなさい、三途さん。」
「んな、ニコニコするようなことあったか?」
「えぇ。人様のお宅を伺うときに、ちゃんと挨拶出来るようになったんだなって。」
「…は?」
「弟の成長が嬉しくて、つい。」
三途の表情に、慌てたように女弁護士は眉を下げた。
「私情でごめんなさい。真面目に働きます。」
「…おぅ、そーしてくれ。」
三途が呆れつつ、腕を差し出せば、女弁護士はそっと手を掛ける。
二人が歩き出すと、つい先程閉まった扉が開き、蘭が顔を出した。
「三途?灰谷先生ぇ?」
「あー、今行くとこだよ。」
「しっかりしてくれよ、三途。」
「してるっつーの。」
「灰谷先生は、ゆっくりで大丈夫ですからね。」
「えぇ、有難う。」
自分の敬語に小さく笑う女弁護士に、蘭は微笑み返す。三途のことは無視だ。
「蘭。」
先に室内に戻ろうとしたところで、女弁護士に呼び止められる。
「ん?何、姉さん。」
弟として呼び掛けられたことを察して、答えれば、近付いてきた姉が手を伸ばしてきた。
「良い子ね、蘭。」
届かない頭頂の代わりに撫でられた毛先に、蘭はゆるりと笑んだ。
「ってなことがあってよぉ。弟といえどアラサーの男への態度かよ?」
「あー、まぁな…。」
時折見掛ける風景を思い出し、九井は言葉を濁しながらも、内心同意する。
「つぅかさ、良い子はないだろ、ヨイコは。」
「それは、な。俺達、反社だから。」
「百合さんには良い子に見えてんのかねぇ、反社の弟が。あ?てか、あいつらが良い子なら、百合さん的には、俺等も良い子ってこと?」
二人は顔を見合わせた。先に口を開いたのは九井だった。
「…俺は良い子だと思われてる気がする。」
「そんなら、俺もじゃねぇの?」
「お前は前科あんだろ、三途。」
三途は、うっと詰まる。
むしろ、あんなことがあったのに、女弁護士の態度が変わらないことの方が可笑しいともいえる。
そんな三途を、九井は鼻で軽く笑うと、ふと思い出したように話し出した。
「そういや、俺もこの間、ここで仕事してたときなんだけどさ…」