後半、というか、セットになってしまっただけで、全然誕生日関係ない話になってしまいました。
いや、前から書きたい話ではあったんですが。
「覗きかあ、竜胆。」
突然真後ろから声を掛けられ、竜胆は慌てふためく。
「な、兄ちゃん、トイレ行ったんじゃねぇの。」
「可愛い弟の不穏な気配を察して。」
ニヤリと笑うと、蘭は弟越しに、その弟がこっそり覗いていた部屋の中を覗く。足元灯以外が消えた室内は薄暗く、はっきりと中の様子を見て取ることは出来ない。
しかしながら、弟が何を見ていたのかを、蘭は十二分に承知していた。
「で、竜胆。何か申し開きは?」
承知した上で、敢えて問う。
「だ、って、姉ちゃん居るの、ホントかって思うじゃん。ホントにマジでちゃんとここにいるの?って、思っちゃっても、仕方ないじゃん。」
「まあなぁ。」
答えると、弟の横を擦り抜け、部屋に入った。
「ちょ、兄ちゃん。」
慌てる弟を尻目に、静かにベッドに歩み寄ると、スタンドの明かりを灯す。
「何してんの、兄ちゃん!姉ちゃん、起きちゃうじゃん!」
自分を追って入室した竜胆が隣に立ち、小さな声で文句を言えば、蘭は軽く顎で姉を示す。
「大丈夫だろ、ホラ。」
小さな声を漏らすと、横に寝転がった姉は胎児のように身体を丸めた。
「…姉ちゃんだ…熟睡モードの姉ちゃんだ…」
「な?」
安定したリズムで聞こえてくる微かな寝息に合わせ、布団も小さく上下する。
竜胆は、ベッドサイドにしゃがみこむと、ベッドに腕と顎を乗せた。ベッドは小さく軋むも、当然姉は起きることはない。
「…熟睡してくれてる。疲れてんのかな。」
「それはそうだろ。ニューヨークから来たんだぜ。」
「…疲れてたとしても、こんなに良く寝てるってことは、安心してくれてるってことだよね。俺等のこと、警戒したりしないで。」
「何言ってんだよ、竜胆。姉さんが、俺等のこと警戒するわけねぇじゃん。」
「でも、俺も兄ちゃんも反社だよ。いっぱい人殺してっし、悪いことばっかしてるし。」
蘭は、竜胆が腕を乗せる隣、姉の足側のベッドに腰掛けた。
「姉さんには、俺等が人殺してよーが、反社だろーが、関係ないっしょ。姉さんが、俺と竜胆のこと、何より愛してるの知ってンだろ。」
「それは知ってるけど…10年も離れてたし。」
「は?お前、たかが10年離れてただけで、姉さんの愛疑うわけ?」
「っんなワケねーじゃん!」
兄の優しげな声音が一転したこと以上に、言われた内容に対して竜胆は強く反応した。
「姉ちゃんが俺等のこと愛してくれてることは、ちゃんと解ってるっての!俺が言いたいのは、何ていうか」
竜胆が口籠って言葉を考えるのを、蘭は黙って待つ。
「何ていうか、姉ちゃん、あっちですげぇ活躍してたのに、それ全部捨てて俺等のとこ来てくれて、これからは同じ家に住めて、仕事も同じだから、ずっと一緒にいられるって事実だけでもすげぇのに、10年も離れてて、俺等反社になってんのに、こんっな安心しきって熟睡してくれてさ。」
竜胆は手を伸ばして、頬にかかる姉の髪をその耳にかけ、暫く穏やかな寝顔を見つめた。
「竜胆?」
兄に声をかけられた竜胆は、突っ伏した。
「俺、幸せ過ぎて恐い!」
弟の告白に、蘭は思わず吹き出した。
「姉ちゃん相変わらずすげぇ可愛いし、テレビ電話じゃ判んなかったけど、ちょっと位おばちゃんになってきてるかなって思ってたけど、全然でホントすっげぇ可愛いまんまだし、まぁ仕事は行かせられたけど、でも優しいし、俺と兄ちゃんのこと超愛しいってこと、言葉の端々、態度の隅々から伝わってくるし、何かホント幸せ!幸せ過ぎて恐い!」
ひとしきり笑った蘭は、掛け布団越しに、本来あるはずの先が喪われている脚の端をそっと撫でた。
「まぁ、確かにすげぇ幸せだな。」
「でしょ!」
竜胆は顔を上げると、また姉の寝顔を見つめながら口を開いた。
「あー、俺、夢見てんのかも。」