最初は、秀零+風見夢のWデート宅飲みのつもりだったんですが、あまりにも風見が不憫だったので、風見にはお休みしてもらうことにしました。
零くんと先輩はお互いをゴリラだと思ってるっていう話。
とこじじょうなんてタイトルのくせに色気は皆無です。
書き始めてから今日の完成までに十日位かかったので、当初の勢いを失い、なんかしりすぼみな感じになってしまいました。
日付が変わった直後のこと、インターフォンが鳴った。
愛しい零くんの姿を確認して、嬉々として扉を開ける。
「おかえり、零くん!センパイも。」
「ただいま、赤井。」
「ただいま、秀くん。お邪魔しまーす。」
1週間の潜入捜査から戻った二人は、疲労の色が見られるものの、無事に戻った安心感からか晴れやかだ。
「二人とも飯と風呂は?」
「すみません、どちらも軽く済ませてきました。」
「といっても、急ぎの最低限の報告書書きつつ食べたコンビニおにぎりと、本庁のシャワーだけどね。あ、秀くん、何かご飯あるのー?」
「カレーを作っておいたんだが。」
「わー、食べたい!」
「じゃあ、準備しよう。零くんは?」
「俺は寝たいです。」
零くんは大きく伸びをする。
「赤井、すみませんけど、今日は1人で寝かせてくださいね。1週間ぶりに1人で伸び伸びと寝たい。」
「あぁ………え?」
センパイのカレーをよそいつつ、零くんを振り返った。
「零くん、誰かと寝てたのか。」
今回の任務は、ハニトラを伴うようなものではなかったはずだ。
「あぁ、先輩ですよ。」
「そうか、センパイか。」
センパイに大盛りのカレーを渡しながら、つい流されそうになった。
…センパイと、寝ていた?
二人前はあるカレーを嬉しそうに受け止るセンパイの顔をまじまじと見る。
「ありがとー、秀くん。」
「あ、あぁ…」
…この人に訊いても、多分駄目だ。
部屋着に着替え、洗面所に向かおうとする零くんを呼び止める。
「一寸待て、零くん。1週間センパイと寝ていたのか。」
「えぇ、今回のアジト、ベッド1つだったんで。暖房の調子も悪かったので丁度良かったです。先輩体温高いんですよ。」
「いただきまーす!」
「零くん。」
センパイの声を他所に、俺は恐る恐る口を開いた。
「センパイと浮気か。」
「………は?」
零くんは変な声を出した。
センパイは呑気にカレーを口に運んでいる。
「男女1つのベッドで夜を過ごして何もなかったと?」
「何言ってんですか、貴方じゃないんだから。まして俺と先輩の間に何かあるわけがないでしょう!しかも、先輩は風見の恋人ですよ。俺が部下の恋人を寝取るとでも言いたいのか!」
「体温とか生々しいことを言ったのは君だろう!」
つかつかと歩み寄ってきた零くんが俺の襟首を掴んだ。
「ふざっけんな、バカイ!じょうっだんじゃない!」
「じゃあ、どういうことだ。」
「秀くーん、おかわりもらって良いー?」
「先輩、何馬鹿呑気にしてんですか!先輩もあらぬ疑いをかけられてるんですよ!」
「えー…だって、秀くんのカレー美味しいし…」
「大食いゴリラに訊いた俺が馬鹿でした!」
零くんは、センパイに向けていた視線を俺に戻す。
「赤井。お前本当に俺と先輩を疑ってるのか。」
「…疑いたくはないが、ちゃんと事情をききたい。絶対に大丈夫だという根拠や理由があるなら教えてほしい。」
零くんは俺の首を解放して、視線を落とした。
そして何やら唸り出す。暫くそうしていたかと思うと、二人前2杯目を食べ終えようとしているセンパイを見た。
「先輩。あのこと、赤井に話しても良いですか。」
「あのことって…あのこと?」
「そうですよ、あのことです。」
「えー、景光くんだって凄く引いてたじゃん。墓場まで持ってくって約束したよー。」
「先輩。」
真剣な零くんの声に、センパイはスプーンを動かす手を止めた。
「赤井に変に思われたくないんです。要らぬ心配もかけたくない。」
「…零くん…」
センパイが口を拭いて立ち上がった。
「そういうことなら。」
「先輩。」
「そうだよね、零くんにとって秀くんは絶対だもんね。」「有難うございます。」
センパイは零くんの隣に並び立った。
二人顔を見合わせ、溜め息を吐くと、大きく頷き、それからもう一度大きく溜め息を吐いた。
「昔、先輩が潜伏する前の頃に、二人一緒に結構キツい任務に着いたことがあって。いや、キツいのはしょっちゅうなんですけど、あのときのは屈指のもので。」
「機密事項もあるから詳細は秘密ね。」
「二人ともほぼ五徹で、飯は何とか食べてたんですけど、何とか隠れ家に戻ったときは本当に酷くて。」
「お風呂も1週間位入れてなかったんだよねぇ。」
「えぇ。汗だの体臭だのに加えて、血とか硝煙とか、もう臭いも酷いし、疲労も酷いし、お互い怪我もしてて。」
「そんなとき二時間位余裕が出来たの。といっても、寝たいけど物凄く臭いし、怪我の手当てもしたいし、そもそも単身用アパートのせっまい一室で、風呂は狭いし、布団も一組しか敷けないような狭さで、極めつけは二時間弱しかないしで、なんかもう二人とも吹っ切れちゃってね。」
「二人ともって先に言い出したのは先輩ですよ。一緒に風呂入れば良いって。」
「怪我で腕が回らないところは、互いに洗ってやれば良いって言ったのは零くん。」
「名案だったでしょう。」
「うん。あのときは流石零くん天才って思った。」
「で、一緒に風呂入って、互いの身体洗って、上がってからお互い怪我の手当てして、包帯だけのほぼ全裸で一つの布団で熟睡。」
掛け合いのように説明されて、唖然とせざるを得ない。
「疲れてたし、例え先輩といえど、まぁあんだけ何の反応もしない自分に一寸不安になりましたけどね。」
「私も幾ら零くんといえど、流石に二人してほぼ全裸にちっちゃい布団で熟睡しちゃって吃驚した。」
「一般的に、命の危機を感じた後って、本能的に子孫を残そうとするって言うじゃないですか。それ、全くなかったですからね。」
「なかった。ぶっちゃけ血の繋がった実の姉弟が道を違えてたとしても責められないレベルの状況だったのに、あるまじき勢いでなかった。」
「そのとき思ったんですよね、あぁ、先輩とはそういう風になるの絶対に無理だ、って。」
「そうそう、すっごい大好きだし、当時一番信頼してたけど、絶対にないな、って。」
「お互いに相手をそういう風に見てないっていうか、ぶっちゃけ同じ人間だとは思ってないんですよね。ゴリラかな、みたいな。」
「そうそう…って零くん酷い。でも、ごめん、私もそう思ってる。料理上手の美人ゴリラかな、みたいな。」
「だと思った。」
二人は顔を見合わせて笑った。
次の瞬間繰り出された零くんの左ストレートを、センパイは鮮やかに受け止めた。
「危ないー、零くん。」
「先輩がなかなか失礼なことを仰るので。」
「え、先に言ったの零くんだよね!?先にゴリラって言ったの零くんだよね!?」
「言うのと言われるのじゃ違いますから。」
「ちょ、ちょっと、秀くん!秀くん、零くん止めて!」
センパイが零くんの拳をかわしながら、助けを求めてきた。
「あー…仲が良くて何よりだ。二人の仲が良いことはよく解ったよ。」
「解ってもらえたようで何よりです、赤井。」
「うん。それは良かったんだけど、零くん、ストップ。ストップ!秀くん止めてってば!」
「すまない、センパイ。まだ理解が追い付かない部分もあってな…一服してくる。」
「秀くーん!!」
センパイの叫びを背に、ベランダへ向かった。
(ねぇ、零くん。風見にも話しておいたほうが良いかな、あのこと。)
(風見なら、赤井のような勘違いはしないと思いますが。)
(そうだよね、風見なら大丈夫だよね!)
(…風見くんの心臓のためにも、話さない方が良いとおもうぞ。)