漫画444話
マスターがお幸せそうで何よりです…って思ったシーン。
でも、このちょっと後の話のぶちギレフランのメス豚発言も最高だったと思います(何)
フラン奥様エリザベスさん設定です。
マスターのお言葉に、照れたり、居心地が悪そうにしたり、しかしながら皆が嬉しそうに笑う中、妻が静かに部屋を出たことに気が付いた。
一番喜んで、『マスター、愛してます!私もそう思ってました!』と、年甲斐もなく勢い良くマスターに抱き付いても可笑しくないというのに。
気にかかり、穏やかな空気を壊さぬように配慮しつつ、そっと後を追う。
廊下に出れば、扉からそう離れていない場所に座り込んでいる妻の姿。膝を抱えて、俯いている。
「エリザベス」
慌てて隣に屈んだ。
「どうしたエリザベス。具合でも」
静かに顔を上げた妻に、思わず言葉が止まった。
「…フラン…フランケンシュタイン」
はらはらと涙を流しながら私の名を呼ぶ妻に手を伸ばす。
「エリザベス。」
頬に微か触れた手で涙を救ってやれば、その手にすがるように頬を寄せてきた。
「大丈夫か。どうした。」
声をかけるも、妻は答えない。涙は絶えず零れ続け、時折鼻をすする音だけがする。
具合が悪いわけではなさそうだということだけは感じ取り、少しだけ安心するも、現状は理解できない。
暫くそうしていれば、妻は口を開いた。
「…マスターが…」
「うん。」
「マスターが、家族だと」
一際潤んだ瞳から、ぼろりと大きな雫が零れた。
嗚咽を抑え込むように、妻は口元をその手で覆った。
「私達を、家族だと仰ってくれた。」
「…あぁ。」
妻の想いが、痛い程に解った。
私まで目頭が熱くなるのを感じた。
勢い良く抱き着いてきた妻をしっかりと抱き止める。
一生懸命声を殺しながらも止まることない想いのまま泣く妻を強く、強く抱き締める。
「ずっと、ずっと、そう思って頂けたら、と」
「あぁ。」
「家族のように、伴にあれたらと」
「あぁ。」
言葉を忘れたように、同じ相槌を繰り返すことしかできない。
「思い続けてきて、千年、思い続けてきて」
そう、そうなのだ。
私も妻も、マスターを『愛している』。当然、主として。
そして、伴に生きていく存在として。
「マスターが私達を家族と思ってくださった!」
「あぁ。」
そうだ。
私も妻も、もうずっと思ってきた。
畏れ多かろうと、差し出がましかろうと。
「私達はマスターの家族で、マスターは私達の家族だ。」
何て不遜で不敬な発言だろうか。
ノブレスであるマスターを、人間崩れの私達の家族などと。
それでも私も妻も、もうずっとマスターを家族だと思ってきたのだ。
家族として、愛してきたのだ。
長いこと、私達の一方的な思いだった。
いや、同様に思ってはくださっていたのかもしれない。ただ、その思いを形にしたり、言葉にされたことはなかった。
それでも良かった。
マスターも私達を愛してくださっていることは解っていたのだから。
本の十分程前まで、間違いなくそう思っていた。
それなのに。
「私達は何て幸いなのだろうな。」
随喜の涙を溢す妻を、同じ思いで抱き締めた。