終わったけど、尻切れトンボ感ぱねぇ…っす。
そろそろ普通の日常回書きたい気がするけれど、定期的な三姉弟いちゃ回も書きたくなってきている。し、子供時代も書きたいんだよなあああぁぁ。
「おかえりなさい。」
玄関で靴を脱いでいればリビングから顔を出した姉が微笑んでいた。
「ただいま、姉さん。」
「おかえりなさい、蘭。お疲れ様。」
「うん、ちょー疲れた。」
大袈裟に肩を上げた蘭に、手刷りを頼りに近付いてくる姉は小さく笑う。そんな姉の後ろから鶴蝶も現れた。
「蘭、邪魔してる。」
「おー鶴蝶。仕事済んだ?」
「あぁ、お陰様で。夕飯までご馳走になってしまって…」
「いーのいーの、俺が会食入っちゃったから、むしろ無駄にせず済んで助かったわあ。」
「それなら良いんだが。」
少し申し訳なさそうな鶴蝶に蘭は笑って、手にしていた大きな白い箱を持ち上げてみせた。
「夕飯食ったっつっても、まだ入るっしょ?鶴蝶いるからケーキ、ホールで買ってきちゃった。これ竜胆によろしく〜。」
「解った。」
蘭からケーキ箱を受け取ると、鶴蝶は先にリビングに戻っていく。
「姉さんは大丈夫?」
漸く自分の元に辿り着いた姉の額に手を当て体温を確認する。
「えぇ、もう熱も下がったし、足の痛みも治まったわ。」
「それなら良かった。」
「心配かけて、ごめんなさい。」
「いーよ、別に。幾らでも心配かけて。」
手櫛で姉の前髪を直しながら、蘭は微笑んだ。
「前は心配でも駆け付けてあげることも出来ずにやきもきするしかなかったけど、今はもう、すぐ隣で支えてあげられるんだから。」
「蘭。」
自分に手を貸しながら歩く弟を見上げて嬉しそうに目を細める。
「でも具合悪いのに無理して、更に変な意地までは張らないでほしいなぁ。」
「善処するわ。」
くすくすと笑い合いながら、身を寄せ合ってリビングに入れば、竜胆がカウンターキッチンから声をかけてくる。
「おかえり、兄ちゃん。」
「ただいま、竜胆。お前の分まで働いてきてやったんだから、感謝しろよぉ。」
「それはありがと。でもこれ何。いくら鶴蝶いるからってでかすぎでしょ!」
鶴蝶が持つ箱を指差しながら竜胆が言う。
「えー、姉さんの快気祝いと蘭ちゃんのお疲れ様ケーキなのに。あ、8号な。」
「は?8号?パーティーでもする気なの!?食いきれねぇじゃん!!」
「その箱だと高さは10cm位かしら。そうすると1人約1100立方cmね。」
「姉ちゃんも冷静に計算してないで。」
末弟の悲痛な叫びも姉と兄には響いていない。鶴蝶だけが「俺、頑張って食うぞ。」と竜胆を励ました。
「竜胆、お湯沸かして。」
項垂れる竜胆に構うことなく声をかけた蘭は皿とナイフを準備する。
「何のケーキなの?」
鶴蝶に手を借りテーブルに着いた姉は、目の前の箱をにこにこと見詰める。
「じゃーん。」
効果音と共に、蘭が箱から大きなケーキを取り出す。
「でかいモンブランみたいだな。」
女弁護士の隣に座りながら鶴蝶が見たままに口に出す。
「蘭はモンブランが好きだものね。」
姉の言葉に、何故か蘭は悪戯っぽく笑った。
キッチンカウンターの向こうで竜胆はケーキのあまりの大きさに顔をしかめたものの、一つ息を吐いてから皆に呼び掛ける。
「飲み物、何でも良いね?」
「何でもって何ぃ、竜胆。」
「珈琲。」
兄の問い掛けに対する弟の答えに、姉は顔を輝かせた。
「竜胆!」
「今日1日姉ちゃん、ちゃんと寝て休んでたからね。まぁ、ノンカフェインのだけど。」
「有難う、竜胆。」
心底嬉しそうに女弁護士は笑った。
竜胆が珈琲を準備する間に、蘭はケーキを切り分ける。
「姉さん、これ位?」
「えぇ。有難う、蘭。」
「もっと食べたければ食べて良いからね。」
ケーキを乗せた皿を渡せば、姉は再度礼を口にした。
「鶴蝶はどうする?」
「えっと…任せる。」
「んじゃ、こん位。竜胆は姉さんと同じ位かな。」
蘭が最後に自分の分を皿に移したタイミングで、四人分の珈琲と共に竜胆がやってきた。
「はい、姉ちゃん。」
「有難う、竜胆。良い匂い。」
「熱いから気を付けてね。」
嬉々として口を付けようとする姉に一声掛かけてから席に着いた竜胆は「げっ」と顔をしかめた。
「兄ちゃんと鶴蝶、そんなに食うの。」
「竜胆も食いたければ食って良いぜ。」
「いらない…。」
姉と自分の皿にはホールの八分の一にカットされたケーキが1ピースずつ、そして兄と鶴蝶の皿にはその倍の大きさのケーキが鎮座していた。
「鶴蝶、兄貴ことは気にせず残して良いからな。」
「だ、大丈夫だ。」
いただきますと声を揃えて、各々フォークを運んだ。
「やっぱここのケーキうめぇわ。蘭ちゃんのチョイス冴えてんな。」
「旨いは旨いんだけど、兄貴達のそのサイズは正気の沙汰じゃねぇよ。歳考えて。鶴蝶も若いからって無理すんなよ。」
「大丈夫だ、旨い。」
「本当に美味しいわ。それにモンブランなのかと思ったら中はチョコレートなのね。」
「姉さん好きでしょ。」
「えぇ。有難う、蘭。」
嬉しそうに姉はケーキを口に運び、時折珈琲に口を付ける。
「珈琲も美味しい。竜胆も有難う。」
「ん、どういたしまして。」
答えると竜胆は、フォークを置いて、姉に向き直る。
「姉ちゃん、あーん。」
食べさせて、と口を開ける末弟に姉は困った表情をする。
「お客さんの前よ。」
「鶴蝶だし、いーじゃん。あーん。」
「竜胆。」
「…昨日から姉ちゃんのこと、超心配したんだけどなー。一寸位甘やかしてもらってもバチ当たらないと思うんだけどなー。」
拗ねたような竜胆の言葉に、姉は詰まる。
「百合さん、俺のことなら気にしないでくれ。」
助け船を出しているようで結果的に追い討ちとなっている鶴蝶の言葉に、思わず蘭が吹き出す。
「お客さんの前でみっともないけど…今日だけよ。はい、あーん。」
折れた姉が一口分のケーキを差し出せば、竜胆は嬉しそうに食い付いた。
「じゃあ、姉さんには俺から。はい、あーん。」
「ら、蘭まで。」
「蘭ちゃんも昨日から姉さんのこと超心配したし、今日は姉弟の中で一人だけめっちゃ頑張って働いてきたのにー。」
態とらしい蘭に再度詰まった姉が意を決して口を開けば、蘭は嬉しそうにチョコ部分を多めに取った一口を差し出した。
「姉さん、良い子。」
赤くなった姉に、蘭は嬉しそうに眼を細める。
「んじゃ、蘭ちゃんは竜胆に食べさせてもらおーっと。」
「…いーけど。ほら、兄貴。」
「あーん、って言って。」
「あーんっ!」
いらっとした竜胆は、兄にケーキを差し出した。嬉しそうに口を動かす兄に小さく息を吐くと、今度は先程より少ない量を姉に差し出す。
「姉ちゃん。」
観念したのか姉は大人しく口を開く。
そこからは呼び掛け合いながら、器用に姉弟三人で交互に食べさせあう。
流れるような動作に、鶴蝶が驚いていれば、途中で女弁護士が赤い顔を向けた。
「か、鶴蝶くんも、食べる?」
「い、いや、俺は大丈夫だ。」
「遠慮しないで!」
「本当に大丈夫だ!」
二人のやり取りを、兄弟二人は食べさせ合いながら笑う。
「姉さーん。」
蘭が大きく口を開けば、姉はすぐに鶴蝶から向き直り、ケーキを差し出した。
「…本当に仲が良いんだな。」
穏やかに呟いた鶴蝶に、三人は幸せそうに笑みを返した。