続きです。
久々に、女弁護士のちょっとヤバいところ(実技)を知っちゃう三途くんです。
正しく『所作』という表現が適した動き。
そう、流れるような所作だった。
「弁護士先生ぇ、あんた銃なんて触ったこともねぇだろ。」
三途と女弁護士が、二人で拳銃の売買契約に出向いたときのことだった。
相手は、何度か取引をしたことはあるものの、どうにも梵天を『若い構成員が中心の半グレ集団』と下に見ている組織である。そのため、今回は弁護士先生を同伴させたのだが、如何せん、見ようによっては三途よりも若く見えるため、むしろ逆効果だったようだ。
「知ってるか、銃ってのは分解出来るんだぞ。」
小馬鹿にした顔をして、向かいの席の男は懐から出した拳銃をバラしてみせた。
「で、これを正しく組み立て直さなきゃ、銃は撃てねぇって寸法よ。お嬢ちゃんに出来るか?ま、無理だろうなぁ。」
男の態度に流石に三途が身を乗り出したときだった。
三途の視界の端で、白い手が動いた。
「っおい、百合さ…じゃなくて、灰谷先生!」
女弁護士は、眼前に広げられた部品に手を伸ばしていた。危ないと止めようとした三途は、思わず言葉を飲み込む。流れるような所作で、一分の迷いもなく女弁護士は瞬く間に拳銃を組み立て上げた。
一分と時間を要さなかった作業に、相手方もただただ驚きのは表情を浮かべる。しかし、女弁護士がスライドを引き、間抜け面に銃口を向ければ、途端に顔色を青くした。
「ちょ、百合さん待て待て待て。」
対外用の呼び方も忘れた三途が慌てて止めるも、女弁護士は穏やかに微笑み、指を引き金にかける。
「試射してご覧にいれましょうか。まぁ、素人の組み立てですから、きっと暴発して私の腕が吹っ飛ぶだけのことと思いますが。」
ただただ穏やかな聖母のような笑みに、顔をひきつらせた男達は、梵天に有利な条件で売買契約を結んだのだった。
「百合さん、銃慣れしてたんだな。」
帰りの車、三途が話し掛ければ、女弁護士は笑って頷いた。
「まぁ、知識としてはね。昔取った杵柄ってやつ。ほら、あちらは銃社会でしょ。」
「それもそうか。前々から銃器類の契約だの仕様だの、なぁんか詳しそうだなとは思ってたんだよ。」
「銃器に明るい友人に、基本的な銃器の扱いは手解きしてもらったの。ガンショップや射撃場に連れていってもらったこともあるわ。」
そこまで話して、女弁護士は頬に手を当てて、困ったように首を傾げてみせた。
「でも、あの場で撃てって言われなくて良かったわ。」
「まぁ、契約相手いなくなられたら困るわな。」
「ううん、そうじゃないの。」
「あ?」
恥ずかしそうに女弁護士は笑んだ。
「私ね、射撃はてんで駄目なの。」
「あの距離ならいけんだろ。」
「うーん、体幹の弱さと足のせいで踏ん張りがきかない上に、反動にも負けてしまうから、弾がこう…吃驚する程、明後日の方向へ行ってしまうのよね。」
「明後日の方向。」
「射撃場では、天井や壁、床を抉ってしまって、もう撃たないでくれと言われてしまったわ…。」
恥ずかしそうに眼を反らす女弁護士を、三途はただ見詰める。
しかし、はっとしたように女弁護士は三途に視線を戻した。
「そうだ、春千夜くん。今のことは蘭と竜胆には内緒にしてくれないかしら。」
「何でだよ?」
あの紫コンビならば「姉さん/姉ちゃんすげえ!格好良い!!」と絶賛するだけだろうにと、三途は首を傾げた。
「蘭も竜胆も、私が銃に触ることを良く思わないみたいなの。少し前に、居間のテーブルに竜胆の拳銃が置いてあったから、一寸どかそうと思って手を伸ばしたら、二人とも大慌てて危ないって止めてきて。心配性も困りものよね。」
「心配性っつーか、過保護だろぉ。」
女弁護士は苦笑いを溢す。
「別に弟どもに言やいーじゃねぇか。銃慣れてます、って。」
「あ、えーっと、そのことも内緒にしておいてもらいたくて。」
「は?何で。」
三途は不審そうに首を傾げた。
「あちらであんまり、こう…アクティブに遊び回ってたってことは、ちょっと言い難くて。」
「あー、ヤンチャしてたことは隠しときてーのか。」
「…そんなところ、です。」
「まぁ、良いけど。だぁいすなお姉ちゃんに隠し事されてるあいつらってのも、面白ぇしな。」
「有難う、春千夜くん。」
女弁護士は乾いた笑いを溢した。