1年に1回の、お仕事修羅場ウィークが来るので、その前にこれだけあげたかった…。
2023-6-19 00:37
人付き合い
関東事変から丁度十年。
元天竺の四人は、墓参りの後、終日連れ立って横浜をふらふらと回っていた。
思い出す亡き王の姿は、今でも鮮烈で。
尽きることない思い出話に花を咲かせつつも、しかし徐々に現実へと戻っていく。
夕飯に中華の回転卓を囲みながら、仕事の話や愚痴で盛り上がっていたところで、ふと望月が兄弟へ問い掛ける。
「今更だけど、今日は百合さんどうしてんだ?」
「んー、昼間は普通に仕事で、夜は明司と食ってくるってさ。」
蘭の回答に、竜胆が口を尖らせて続ける。
「タメだからって、明司と姉ちゃん、なーんか仲良いんだよな。明司のやつも、"百合ちゃん、百合ちゃん"って馴れ馴れしいし。」
「えっ、それって…」
「あー、鶴蝶、違う違う。姉さんと明司は、同僚以上お友達以下。」
少しドキドキしてしまった鶴蝶は、蘭の言葉に安心する。
「まぁ、勿論姉さんは魅了的だけど、明司は女見る目無ぇから。」
「つーか、明司に姉ちゃんは勿体無さ過ぎるだろ。姉ちゃん苦労すんの目に見えてんじゃん。そもそも俺、明司が兄貴とか嫌だし。それって間接的に三途とも義兄弟ってことだろ。」
「蘭ちゃんもそれはチョットなあ。」
兄弟は顔を見合わせて、うぇと舌を出す。そんな二人に、鶴蝶と望月も顔を見合わせて苦笑した。
寿桃包を注文する鶴蝶に便乗し、他の三人が氷糖燉燕窩、湯圓、雪花酥、馬拉を頼む。
甘味が運ばれてくるまでは、暫くかかるだろうと考えた望月は、酒を一口飲んでから口を開いた。
「にしても、ちょっと意外だったな。」
「何が?」
皮蛋を摘みながら、蘭が首を傾げた。
「お前らのことだから、もっとお姉ちゃんにべったりになるかと思ってたけど、そこまでじゃなかったからな。」
「何それ。」
「あぁ。それは俺も思った。軟禁とまではいかないが、四六時中くっついてる気かと思ってた。」
「鶴蝶、俺等のこと何だと思ってるの。」
「…シスコン?」
「あとブラコン。」
「うわー、言い返せねぇ。」
「え、俺はブラコンじゃないけど。」
「りーんどー?兄ちゃんのことも大好きだろぉ。」
不満げに言った竜胆の頭を蘭が上から掴む。
兄弟のやり取りに、酒の力も手伝って二人はゲラゲラと笑う。
「つーか、ぶっちゃけ俺等も驚いてるっていうか。」
「思ってたより姉離れ出来てたって?」
粟米湯をよそいながら望月が首を傾げる。
「違う違う、俺等じゃなくて姉さんの方。」
蘭は、器用に小籠包を食べてから、酒の入ったグラスを揺らす。
「姉さん、一人の時間は欲しがるとは思ってはいたんだけど、仕事以外で誰かと飯行くとかは想定外だったんだよ。」
蘭の言葉に、糯米鶏を食べる鶴蝶も首を傾げれば、竜胆が翡翠粉菓を飲み込んで口を開く。
「アメリカ行く前の姉ちゃん、全然友達とかいなくてさ。学校では上手くやってたみたいだけど、誰かと遊び行ったりする以前に、姉ちゃんからクラスメートの話とか聞いたことなかったし、あと具合悪くて二、三日休んでも誰かがプリント届けてくれるみたいなのもなかったんだよ。」
「登下校は、俺と竜胆が必ずくっついてたんだけど、いつも姉さん1人だったんだよね。」
「…それは、むしろお前等のせいじゃねぇのか。」
望月は焼味を摘みながら、呆れたように云う。
「んー、そうじゃねぇんだよなぁ。」
「ほら姉ちゃん、俺と兄ちゃんがいれば幸せな人だから。」
「そーそー。」
「って兄ちゃん、俺の皿から取らないで!蘿蔔なら、まだ大皿にあるじゃん!」
「まーまー。」
兄弟の言葉と態度に、あとの二人は複雑な思いで炒飯を口に運ぶ。
「ともかく、俺と竜胆にとっては、姉さんってのはそういう人だったわけ。」
空いた杯に酒を注ぐ鶴蝶に軽く礼を言って、蘭は続ける。
「けど、あっちでの10年で、姉さんの中の意識も変化したみたいでさ。」
佛跳牆の澄んだスープを掬いながら竜胆が続ける。
「関東事変の後、俺等突然音信不通になったから、かなり姉ちゃんに心配かけたみたいで。多分、それがきっかけなんだよね。」
「その辺りから、仕事以外でも、現地の日本人とか中華街で作った知り合いとかと、一緒にお茶したり飯食べに行ったって話聴くようになってさ。まぁ、流石にルームシェアしてたときは驚いたけど。」
蘭は苦笑しながら、酒に口を付ける。
「でもさぁ、そうは言っても、基本話で聴くだけじゃん。だから実感なかったんだよ。」
蘭が鴨脚扎を齧れば、手掴みで包子に齧り付いた竜胆も大きく頷く。
「それが、こっち戻ってきてからも、俺等以外とも人並みに交流するじゃん?まじだったんだーって、感じなわけ。」
飄々と話す蘭に、姉の行動について嫌がる素振りはないが、隣で竜胆は少し不満げである。
「俺としては、あっちで友達付き合いしてたとしても、こっち来たらまた俺と兄ちゃんだけに戻るんだろうなぁって、チョット期待してたんだけど。」
「まぁ、俺も竜胆も常に一緒にいられる訳じゃないし、無理してんじゃないなら姉さんの世界が広がるのも悪かねぇだろ。」
「んー、まぁ。」
「だからさ」
蘭は、鶴蝶と望月に酒を勧めながら、笑んだ。
「お前等も、引き続き姉さんと仲良くしてやってよ。」
少しだけ姉に似た雰囲気の、裏表がない微笑みに、二人は驚きながらも、素直に頷いた。
元天竺の四人は、墓参りの後、終日連れ立って横浜をふらふらと回っていた。
思い出す亡き王の姿は、今でも鮮烈で。
尽きることない思い出話に花を咲かせつつも、しかし徐々に現実へと戻っていく。
夕飯に中華の回転卓を囲みながら、仕事の話や愚痴で盛り上がっていたところで、ふと望月が兄弟へ問い掛ける。
「今更だけど、今日は百合さんどうしてんだ?」
「んー、昼間は普通に仕事で、夜は明司と食ってくるってさ。」
蘭の回答に、竜胆が口を尖らせて続ける。
「タメだからって、明司と姉ちゃん、なーんか仲良いんだよな。明司のやつも、"百合ちゃん、百合ちゃん"って馴れ馴れしいし。」
「えっ、それって…」
「あー、鶴蝶、違う違う。姉さんと明司は、同僚以上お友達以下。」
少しドキドキしてしまった鶴蝶は、蘭の言葉に安心する。
「まぁ、勿論姉さんは魅了的だけど、明司は女見る目無ぇから。」
「つーか、明司に姉ちゃんは勿体無さ過ぎるだろ。姉ちゃん苦労すんの目に見えてんじゃん。そもそも俺、明司が兄貴とか嫌だし。それって間接的に三途とも義兄弟ってことだろ。」
「蘭ちゃんもそれはチョットなあ。」
兄弟は顔を見合わせて、うぇと舌を出す。そんな二人に、鶴蝶と望月も顔を見合わせて苦笑した。
寿桃包を注文する鶴蝶に便乗し、他の三人が氷糖燉燕窩、湯圓、雪花酥、馬拉を頼む。
甘味が運ばれてくるまでは、暫くかかるだろうと考えた望月は、酒を一口飲んでから口を開いた。
「にしても、ちょっと意外だったな。」
「何が?」
皮蛋を摘みながら、蘭が首を傾げた。
「お前らのことだから、もっとお姉ちゃんにべったりになるかと思ってたけど、そこまでじゃなかったからな。」
「何それ。」
「あぁ。それは俺も思った。軟禁とまではいかないが、四六時中くっついてる気かと思ってた。」
「鶴蝶、俺等のこと何だと思ってるの。」
「…シスコン?」
「あとブラコン。」
「うわー、言い返せねぇ。」
「え、俺はブラコンじゃないけど。」
「りーんどー?兄ちゃんのことも大好きだろぉ。」
不満げに言った竜胆の頭を蘭が上から掴む。
兄弟のやり取りに、酒の力も手伝って二人はゲラゲラと笑う。
「つーか、ぶっちゃけ俺等も驚いてるっていうか。」
「思ってたより姉離れ出来てたって?」
粟米湯をよそいながら望月が首を傾げる。
「違う違う、俺等じゃなくて姉さんの方。」
蘭は、器用に小籠包を食べてから、酒の入ったグラスを揺らす。
「姉さん、一人の時間は欲しがるとは思ってはいたんだけど、仕事以外で誰かと飯行くとかは想定外だったんだよ。」
蘭の言葉に、糯米鶏を食べる鶴蝶も首を傾げれば、竜胆が翡翠粉菓を飲み込んで口を開く。
「アメリカ行く前の姉ちゃん、全然友達とかいなくてさ。学校では上手くやってたみたいだけど、誰かと遊び行ったりする以前に、姉ちゃんからクラスメートの話とか聞いたことなかったし、あと具合悪くて二、三日休んでも誰かがプリント届けてくれるみたいなのもなかったんだよ。」
「登下校は、俺と竜胆が必ずくっついてたんだけど、いつも姉さん1人だったんだよね。」
「…それは、むしろお前等のせいじゃねぇのか。」
望月は焼味を摘みながら、呆れたように云う。
「んー、そうじゃねぇんだよなぁ。」
「ほら姉ちゃん、俺と兄ちゃんがいれば幸せな人だから。」
「そーそー。」
「って兄ちゃん、俺の皿から取らないで!蘿蔔なら、まだ大皿にあるじゃん!」
「まーまー。」
兄弟の言葉と態度に、あとの二人は複雑な思いで炒飯を口に運ぶ。
「ともかく、俺と竜胆にとっては、姉さんってのはそういう人だったわけ。」
空いた杯に酒を注ぐ鶴蝶に軽く礼を言って、蘭は続ける。
「けど、あっちでの10年で、姉さんの中の意識も変化したみたいでさ。」
佛跳牆の澄んだスープを掬いながら竜胆が続ける。
「関東事変の後、俺等突然音信不通になったから、かなり姉ちゃんに心配かけたみたいで。多分、それがきっかけなんだよね。」
「その辺りから、仕事以外でも、現地の日本人とか中華街で作った知り合いとかと、一緒にお茶したり飯食べに行ったって話聴くようになってさ。まぁ、流石にルームシェアしてたときは驚いたけど。」
蘭は苦笑しながら、酒に口を付ける。
「でもさぁ、そうは言っても、基本話で聴くだけじゃん。だから実感なかったんだよ。」
蘭が鴨脚扎を齧れば、手掴みで包子に齧り付いた竜胆も大きく頷く。
「それが、こっち戻ってきてからも、俺等以外とも人並みに交流するじゃん?まじだったんだーって、感じなわけ。」
飄々と話す蘭に、姉の行動について嫌がる素振りはないが、隣で竜胆は少し不満げである。
「俺としては、あっちで友達付き合いしてたとしても、こっち来たらまた俺と兄ちゃんだけに戻るんだろうなぁって、チョット期待してたんだけど。」
「まぁ、俺も竜胆も常に一緒にいられる訳じゃないし、無理してんじゃないなら姉さんの世界が広がるのも悪かねぇだろ。」
「んー、まぁ。」
「だからさ」
蘭は、鶴蝶と望月に酒を勧めながら、笑んだ。
「お前等も、引き続き姉さんと仲良くしてやってよ。」
少しだけ姉に似た雰囲気の、裏表がない微笑みに、二人は驚きながらも、素直に頷いた。
コメントする
カレンダー
アーカイブ
- 2024年4月(1)
- 2024年2月(3)
- 2024年1月(1)
- 2023年12月(1)
- 2023年11月(5)
- 2023年10月(4)
- 2023年9月(3)
- 2023年8月(3)
- 2023年7月(3)
- 2023年6月(3)
- 2023年5月(8)
- 2023年4月(8)
- 2023年3月(3)
- 2023年2月(3)
- 2023年1月(4)
- 2022年12月(3)
- 2022年11月(3)
- 2022年10月(3)
- 2022年9月(4)
- 2022年8月(4)
- 2022年7月(4)
- 2022年6月(5)
- 2022年5月(5)
- 2022年4月(10)
- 2022年3月(4)
- 2022年2月(3)
- 2022年1月(4)
- 2021年12月(1)
- 2021年11月(1)
- 2021年5月(1)
- 2021年3月(3)
- 2021年2月(2)
- 2021年1月(2)
- 2020年12月(11)
- 2020年10月(1)
- 2020年5月(1)
- 2020年4月(1)
- 2019年5月(1)
- 2018年8月(3)
- 2018年7月(7)
- 2018年6月(4)
- 2018年5月(2)
- 2017年12月(3)
- 2017年11月(9)
- 2017年10月(10)
- 2017年9月(6)
- 2017年7月(6)
- 2017年6月(2)
- 2015年4月(1)
- 2015年2月(1)
- 2013年5月(1)
- 2013年4月(2)
- 2012年11月(1)
- 2012年10月(2)
- 2012年9月(2)
- 2012年8月(3)
- 2012年7月(5)
- 2012年6月(2)
- 2012年5月(3)
- 2012年1月(3)
- 2011年12月(1)
- 2011年11月(3)
- 2011年10月(1)
- 2011年9月(1)
- 2011年8月(5)
- 2011年7月(2)
- 2011年6月(7)
- 2011年5月(6)