2話のつもりだったけど、短かったので一つにまとめました。
そろそろ、時間が前後するの正したいから、ちゃんと時間軸表作らないとなぁ…。
足を止めた長弟に合わせて、姉と末弟も足を止める。
「姉さん、ちょっとごめんね。」
そう断り、蘭は姉に手を伸ばす。頬に触れた手の冷たさに、姉は思わず目を瞑る。大きな手は、首に降りると、確認するように指の先で軽く触れた。
「竜胆。」
「ん。」
兄の意図を組んだ竜胆は、鞄から体温計を取り出すと素早く姉の耳で体温を計った。
「37.4℃。」
「あーやっぱ。顔、赤いもんな。」
弟二人の言葉に、姉はしゅんとする。
「宿、戻ろうね、姉さん。」
「…うん。」
朝、観光に出る時点で喉の不調を自覚しており、症状が悪化したら即戻るという約束をしたのは他でもない姉自身である。
旅先で、掛かり付け医をすぐに呼び出すことも叶わないため、体調の変化には常以上に注意を払う必要があることも承知している。
すっかり気落ちしている姉に、弟二人は顔を見合わせた。
「…姉さん。気持ち悪いとか、頭痛いとかある?」
長弟の問いに、姉は首を横に振る。
「少し温かいなって感じがするだけ。」
「じゃあ、時間も時間だし、昼だけ食べてから戻ろっか。竜胆も、それで良いだろ。」
「うん、兄ちゃん。予定してた蕎麦屋、もうすぐそこだし。」
弟の言葉に、姉はぱぁっと表情を明るくした。折角の旅を、少しでも満喫したいし、弟にも満喫させたいのだ。
「あ、でも蕎麦って消化悪いし、うどんにする?良さそうなほうとうの店も近くにあるけど。姉ちゃんどっちが良い?」
「出来ればお蕎麦が食べたいわ。年越し蕎麦代わりなんだし。」
「じゃあ、蕎麦なー。」
「途中で具合悪くなったらすぐ言ってね、姉ちゃん。」
「えぇ。」
弟に挟まれ、姉の足取りが軽いのは、決して熱のせいではないだろう。
浮上する意識、その直後に感じ取った振動に身を固くする。
昼食後、宿に戻り、弟に見守られながら眠りに就き、一度起きて夕食を取り、また眠りに就いたのを記憶している。
しかし、此処は明らかに宿の布団ではない。
思わず息を止め、脳裏に可能な限りの状況、言うなれば悪い方の状況を想像する。
頭を働かせながら、微かに手足を動かしてみる。どちらも動くが、義足は無い。ただでさえ困難な移動は、かなり厳しい。
自身の身体の状態を把握したところで、次の手のため、深呼吸をした。
馴染み深い花の香りがした。
「姉ちゃん?」
ゆっくりと眼を開ければ、そっと自分を上から覗き込む末弟。
「竜胆。」
寝起き特有の掠れ声に、竜胆は微笑む。
「姉さん、目ぇ覚めた?」
前方、助手席から蘭が後部座席の姉弟を振り返る。
「蘭。」
「おはよ、姉さん。」
「おはよ、姉ちゃん。」
「ん、おはよう。」
正確な状況は理解出来ないものの、弟の様子からして、危険や問題がある状況ではないのだろう。
安心した姉は、ゆっくりと身体を起こす。竜胆の膝を枕にしていたらしい。
「姉ちゃん、大丈夫?どっか具合悪いとかある?」
「いいえ、大丈夫よ。」
見回せば、そこは走る車内だった。
窓外は、ぼんやりと明るくなり始めている。
不思議そうな姉に、弟二人は眼を合わせた。
「姉さんのこと、誘拐しちゃった。」
「誘拐?」
蘭と竜胆は、悪戯が成功したように笑い合う。
「姉ちゃん寒くない?着せられるだけ着せてきたんだけど。」
「暖かいわ、有難う。」
「もうすぐ着くからね、姉さん。」
「何処に向かってるの?」
弟は再度目を合わせて、それから揃って姉に微笑んだ。
「「初日の出。」」
弟の回答に、姉は眼を瞬かせる。
確かにそれは、この旅行の主目的だった。
「でも」
「姉さん、熱下がったみたいだったから。」
長弟の言葉に、はたと気付けば、寝る前の熱っぽさは無い。
「っても寒いから、ギリギリまで車待機で、パッと見て、パッと帰るけどなあ。」
「姉ちゃんが移動するときは俺が抱えるから、安心して。」
弟の言葉に、思わず頬が緩んでいく。
「有難う、蘭、竜胆。」
姉の嬉しそうな顔に、弟も嬉しくなる。
「どういたしまして。あ、そうだ。姉さん、明けましておめでとう。」
「おめでとう、姉ちゃん!」
「そうね、明けましておめでとうございます。今年も宜しくね、蘭、竜胆。」
聖母のように微笑む姉に、弟は声を揃えて勿論と答えた。