また黒百合呪いの子世界線話です。
先日の続きです。
ふと周りを見回す。
「またあの夢か。」
「またって何だか迷惑そうな言いようね。」
ソファーの隣、片割れが笑う。
「夢なのだろう。」
「えぇ、夢よ。」
隣を見れば、丁度紅茶が差し出された。
「この間は口を付けなかったでしょう。」
「あぁ。悪いことをしましたな。」
「別に大したことではないわ。」
そう言いながら片割れは自分のカップに口を付け、つられるように此方も口を付けた。夢の中だと言うのに不思議なことに心地好い温かさを感じた。
「美味いな。」
素直に感想を口に出せば片割れは少し驚いてみせた。
「何だ。」
「貴方が素直に褒めてくれるなんて驚きだわ。」
「どうせ夢なのだろう。思ったことを思ったように口に出して何が悪い。」
「それは…そうね。」
でも出来ることなら生きているうちに聴きたかったわ。
片割れの言葉が、重く心に響いた。
「…すまなかった。」
「別に言う程気にしてないわ。かえって気を使わせちゃって、此方こそごめんなさい。」
肩をすくめて悪戯っぽく笑う片割れに、静かに首を振った。
「そのことではない。…いや、違うな、そのこともか。」
「セブルス?」
「すまなかった、全て。」
片割れの瞳を見詰めれば、自分のに酷似した色が真っ直ぐに見詰め返してきた。
「挙げれば切りはないが、一番は、お前を殺したことだ…」
少し迷ってから、片割れの手を握った。
「すまなかった。謝って済むことではない。許せとも言わん。だがしかし、すまなかった。」
ただただ頭を垂れる。夢の中とは思えぬ程、握った手の感触は確かなものだった。
「私、貴方に殺されたなんて思ってないわ。貴方が手を下したわけでもない。」
そっと、手が握り返された。
「私の死は私が望んだこと。あの日、私か貴方、どちらかが死ななければならなかった。私は貴方に死んでほしくなかった。だから私は自分で自分が死ぬことを選んだ。貴方に生きてほしかった。」
ゆっくりと頭を上げれば、片割れはとても穏やかな笑みを浮かべていた。
「………それでも、すまなかった。」
再び頭を垂れた。自分が愚かしかった。誰でもない自分自身のために、謝罪の言葉を口にしていた。目の前に片割れがいると言うのに。
「ね、頭を上げて。」
促されるままに再び頭を上げた。
「それで気が済むなら、気が済むまで謝ってくれて構わないわ。でも1つだけわかってほしい。」
片割れは朗らかに笑った。
「私、幸せよ。」
それは嘘偽りない、心からの笑みをだった。