三蔵(玄奘)誕生祝に上げようかとも思ったのですが、全然間に合いませんでしたー!!というか、当日は「叔母上の恋人」でいっぱいで、なんかもう三蔵(玄奘)まで手が回りませんでした。
で、なんか長くなってしまいました。あるぇ?
なお、三蔵と夢主は、旅の間に食糧調達(狩り)を通して仲良くなる感じです。
まぁ、今回は狩りの話じゃあないんですがね(何)
三蔵喋り過ぎな気もする…。
「お休みのところ、失礼します。」
ノックの後、扉を開いて姿を見せた少女は、師匠ではない方の三蔵に視線を向けた。
「お師匠様から、玄奘様が書庫をご覧になりたいとのことなのでご案内するよう申し付かって参りました。今、宜しいでしょうか、玄奘様。」
「あぁ。」
三蔵が腰を上げると、悟空が手を振った。
「いってらっしゃーい。」
残る三人にぺこりと頭を下げると、少女は三蔵を伴い部屋を後にした。
蝋燭で通路を照らしながら少女は慣れた様子で書庫の中を進む。
「暗いので、足元お気を付け下さいね。」
「あぁ。」
「ちなみに、どういうものをご覧に?」
「仏教書…特に三蔵法師や経文に関するものがあれば。後は西域の信仰や儀礼に関するものも頼む。」
三蔵の答えに少女は困ったような声を漏らした。
「別に他所の奴に見せられねぇもんは、無理に見せろなんて言わねーから心配するな。」
「そういうものはございません。お師匠様から、玄奘様がご覧になりたいものは全てお見せして構わないと言われておりますので。」
「じゃあ何だ。」
少女は足を止めて、怪訝そうな三蔵を振り仰いだ。
「私、あまり仏教関係の書物については把握をしておりませんで…梵字は全く読めませんし…。」
「あ?」
「申し訳ございません。」
頭を下げる少女に三蔵は溜め息を溢す。
「…なんで紗烙はお前を案内役にしたんだ。」
乾いた笑いを漏らす少女に、三蔵はふと首を傾げた。
「つか、仏門に帰依してんなら梵字位読めなきゃ不味いだろ。」
すると今度は少女が首を傾げた。
「私、仏門に帰依してませんが。」
「はぁ?」
「神仏への信仰心も特に持ち合わせておりませんし。」
「…お前、紗烙三蔵の弟子なんだよな。」
「そう問われると、答えは半分是で半分否ですね。」
「禅問答してる訳じゃねぇんだぞ。」
「すみません、そういうつもりでは。ただ私はお師匠様が三蔵法師だからお仕えしている訳ではないので。」
少女の言葉に、三蔵は既視感を覚える。
「私はお師匠様という一個人にお仕えしているのです。もしお師匠様が三蔵法師でなくても私はあの方にお仕えしていますから。」
まるで過去の自分を見ているようで。
「あ、玄奘様!この棚!お師匠様が三蔵になったばかりの頃、良くご覧になってたので多分三蔵法師に関するものはこの辺りかと!あとその隣の隣の棚が、確か西域に関する書物の棚です!」
師から申し付けられた役目を何とか全う出来た喜びからか少女が明るい声を出した。
「…玄奘様、どうかされました?」
「いや…」
三蔵は示された箇所の書物を手に取った。
「灯り、どうぞ。」
「………なぁ。」
「はい。」
書物に視線を落としたまま、三蔵は口を開いた。
「もし紗烙が、自分の師が殺されたらお前はどうする。」
かつての自分と異なり、守る力も戦う強さも持つこの少女がもし自分と同じ立場に立たされたらどうするだろうか。
「復讐するか。紗烙を殺した奴を、殺すか。」
灯りを見つめた少女は、頬に手を当て考える素振りを見せた。そして数秒の後、ゆっくりと口を開いた。
「殺します。」
三蔵が見やれば、少女は冷ややかな眼をしていた。しかし二人の視線が合うとそれは穏やかなものへと変わる。
「ただその前に弔います。」
「弔う?」
「別れのときにちゃんと別れないとずっと後悔することになると先代の三蔵様も仰っておりました。」
「一理あるな。」
「そもそもお師匠様が殺される状況というのは想像し難いですが。私や部隊の者がお側にいたら必ずお守りしますし。紗烙三蔵は殺されたって死なないような人ですよ。」
小さく笑いを漏らしながら言う少女に、三蔵は何故か少し安堵して書物に視線を戻した。
「あぁ、でも」
急に笑いを止め、少女はぽつりと呟いた。
「私がその気になれば殺せるか。」
何処か虚ろな物言いに三蔵は訝しげに少女を見る。
「でも、自分の手で仲間や家族を殺すのはもう嫌だな。」
誰にともなく向けられた言葉に、三蔵は躊躇いがちに口を開いた。
「…何だそれは。」
「……何なんでしょう?今、ふっとそう思ったのです。」
「物騒な奴だな。」
「…全く縁起でもないことですよねぇ。」
自身の発言を、まるで他人事のように少女は笑った。