あの、結局ですね、安室さん(バーボン/降谷さんでも可)にハマりましてね。ハマったというか、好きだと、気付いてしまった(何)
で、あーでもないこーでもないと考えた結果がこれです(更何)
女主男主どちらでもどうぞ。
部屋の様子が、出たときと僅かに違う。
誰かいる。
息を潜めて、静かに玄関の扉を閉めた。
気配はするのに、どうにも可笑しい。
人の家に侵入しておいて、隠れている様子がない。
リビングに通じる扉に手をかける。
五秒考えて、勢いよく扉を開けた。
ソファーに横たわる人影。
動きを見せないその人影を見定めれば……寝て、いる。
信じ難いがそうとしか思えない様子に、警戒しながらもソファーに近付いた。
そして、九割の驚きと一割の安堵の息を吐いた。
「…先輩…。」
俺の声に、人影が身動ぎをした。
「んぅ…」
ゆるりと黒い瞳がその姿を現した。
「…零くん。」
「どうも。」
「あぁ、ごめん、寝ちゃってた。」
先輩は身体を起こすと大きく伸びをした。
「んー、久々に良く寝たー。」
「人んちに不法侵入して、よく熟睡出来ますね。」
呆れを隠さずに言えば、先輩はにへらと笑った。
「零くん、温かいお茶が飲みたいなぁ。」
「…煎茶ですか。紅茶ですか。」
「八宝茶が飲みたい。」
「烏龍茶で我慢してください。」
キッチンに向かう背に、「は〜い。」という長閑な返事が投げられた。
なんだこの三十路。
「先輩。生きてたんですね。」
「え、誰かに死んだって聞いた?」
先刻よりはしっかりした様子でマグカップを受け取りながら、先輩はきょとんと問い掛けた。
「いえ。」
「じゃあ、生きてるよ。」
笑いながら、烏龍茶を飲む先輩。
かれこれ先輩は四年の潜伏生活を送っている、はずだ。
かつて先輩は、俺が潜入している組織とは別の犯罪組織に侵入していた。しかし、部下の不始末を被り正体がバレ、それからその組織から逃げる形で潜伏することになった。
本人だけならバレるはずはなかったし、部下を庇わなければ逃げるという選択をせずとも済んだだろうに。
しかしながら本人は現状を楽しんでいる節もある。
「昔から隠れん坊とか鬼ごっことか得意なんだよね。」
そう宣う先輩の現状は、本人からの申し出が無ければ公安でも掴むことが出来ない。
それはもう、神隠しに遭ったかのようで。
「…それなのになんで、俺のところに来るんですか。」
「そりゃ、可愛い後輩がどうしてるかなーって。零くんのところなら安全だし。」
「今俺、結構危ない任務に就いてるんで。」
詳細は言わずに、危険であることだけを伝えれば、先輩は口を尖らせた。
「えー、じゃあ零くんのご飯食べられないってこと?」
「…あのねぇ…」
余りの呑気さに、二徹の頭は素直にイラッとくる。
「それ飲んだら出てってください。」
「そんなっ!潜伏生活に身を費やす先輩を何日か休ませてあげようと思わないの?!」
「…何日ですか。」
「六日位。」
「出てけ!」
結局先輩は七日居座り、そしてまた何処かへ消えてしまった。
それは、まるで神隠しのように。